神奈川ビジネスUp To Date
ゲスト
トヨタ自動車株式会社
新事業企画部長 秦直道さん
「最新の水素技術動向」を特集。2017年7月に横浜でスタートした水素活用の実証実験プロジェクト。京浜臨海部の物流を軸に、製造から利用までのサプライチェーンを構築している。プロジェクトを牽引するのはトヨタ自動車。「MIRAI」から続く燃料電池自動車(FCV)の可能性を開発責任者の田中義和氏に取材。東京モーターショーに象徴された世界的なEVシフト、多様な電動化の流れの中、なぜ水素にこだわり続けるのか。スタジオでは新事業企画部長の秦直道さんに実証実験プロジェクトが持つ可能性とトヨタが描く水素社会へのロードマップを伺います。
環境省による「地域連携・低炭素水素技術事業」。水素エネルギーの可能性を追求するこのプロジェクトには3つの自治体と、企業6社が参加、平成27年度から30年度までの4か年事業で、開始から2年の昨年7月、横浜港にある風力発電所ハマウイングに水素製造システムが完成。「京浜臨海部での燃料電池フォークリフト導入とクリーン水素活用モデル構築実証」がスタートしています。
内田
京浜臨海部で水素のサプライチェーンの実証実験が始まりました。トヨタも重要なポジションで入っていますけども、この実験の目的、何のために行なっているのかというところを教えていただけますか?
秦
一言で言いますと「水素の可能性と課題を明らかにしたい」というのがこの実証の目的です。よく言われています様に、これから私たちは低炭素エネルギーに移行していかなければならないという中で、水素が貢献できる比率は大変多いと思っています。ただそういう可能性がある一方で、コスト面だとか、ルールができていないとか、いろいろな課題がありますので、一つずつその課題を明らかにして対策を打っていきたいという風に考えています。
内田
水素は「究極のエネルギー」という風に言われるのですけども、今まではそうした実験をする場は無かった?
秦
今回環境省さんからお声掛けいただき、「事業実証」という形でやらせていただいています。つまり技術実証ではなくて、実際に水素のサプライチェーンを作って利用いただくところまで、経済として成り立つか、コスト面でどういった課題があって、どういったことを克服すれば成り立つか、というのを事業実証で見極めていこうということが今回の特徴だと思います。
内田
まず水素を作るところから始めて、デリバリーをして、それが動く。生産活動に参加している、というところがグルグル回るのかどうか。これは日本で初めて?
秦
横浜の「ハマウイング」という2007年に作られた風力発電の施設があります。ここを活用して、二つの目的がありまして、一つは実際に水素をその場で作って、それを使っていただくユーザーの下に届けるという、先ほどおっしゃっていただいたサプライチェーンの実証。もう一つは燃料用電池フォークリフトになるのですけど、ユーザーの方に使っていただく。これまで乗用車として私どもは「MIRAI」という車を出しました。ただこれから水素社会を広げるために、この燃料電池で動く車両を乗用車だけでなくてフォークリフトだとか、こういったものに広げていきたい。サプライチェーンを作ることと、水素を利用する人たちを増やしたいという、この二つを織り込んだのが今回の実証実験だと思います。
内田
横浜港のシンボルみたいなあの大きい風車が回っている。やはり風車、自然エネルギーを元にして水素を作りますというところは大事なところなのですか?
秦
そうですね。従来、自然エネルギーと言いますと太陽光だとか地熱だとかいろいろなやり方があります。今回は「風力を使って」というお題があったわけですが、今回の特徴のもう一つは横浜という都市型立地の場所にある風車を使って、実際に水素を作ってみようということにあります。横浜という土地柄、いろいろな方に見ていただきたい。今、たくさんの見学者が来ていただいていますが、皆さんが足を運んで見ていただくのに立地がいいという場所、それから京浜地区でフォークリフトを利用されるユーザーさんのポテンシャルが大変多いということで、この横浜のハマウイングに自然のエネルギーを求めて今回実証のプログラムを作ったわけです。
内田
このプロジェクトの中で、トヨタはどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか?
秦
産官学が一体となった取り組みの中で、参画していただいているそれぞれの強みをうまく繋いだ仕組みとして成り立たせるためのコーディネーター、そういった役割を担わせていただいています。そしてハマウイングにある施設には蓄電池がありますが、ここにプリウスの使用済みバッテリー180個を搭載した蓄電池を置いて、風が止んでいる時に動かないといけませんので、風車が回っているときに余分な電気を溜めておく。そういった関わりをしていたり、燃料電池のフォークリフトのバッテリーは「MIRAI」のユニットを転用していたり、トヨタ自動車の技術なり、商品としても関わっているのですが、今回は水素社会を作る仲間を集めたプロジェクトの窓口、コーディネートをやらしていただいたということです。
内田
水素が普及していくためには、タマゴが先かニワトリが先かみたいな、ステーションが無ければ車は売れないし利用者も増えない、でもそれを作るにはコストが高すぎて先行投資はなかなかしづらいという中で、水素を作ってデリバリーすれば、来てもらうのではなくて、デリバリーしていこうと。そういう発想から?
秦
水素ステーションが事業的に成り立ちがたい、その課題の一つは、待っていても来てくれないと水素ステーションの売り上げが伸びていきませんので、配っていくことで供給量を増やせないかというのが発想のベースにありました。
水素とトヨタの象徴的なつながりは2014年に発表した世界初の量産FCV「MIRAI」にあります。ガソリン車に匹敵する航続距離、短い水素充填時間、走行中の排出物は水のみという環境性能で次世代に向けたエネルギー技術、モビリティの可能性を示しました。「MIRAI」の設計・開発の責任者として指揮をとってきた田中義和さんにお話を伺いました。
内田
田中さんは「MIRAI」の開発に最初から携わられたということで、いろいろな問題を一つ一つ解決しながらここに至っていると思うのですけれども、そのプロセスの中でここが一番難しかったというところはどこになるのでしょうか?
田中
燃料電池は元々、パワーを出すのが難しいのですね。原理そのものはシンプルで、水素と酸素の科学反応で電気が発生する、その結果水が出るということで、メカニズムそのものは水の電気分解の逆。ものすごくシンプルですけども、パワーを出すのが難しい。今回114キロワットのパワーを出しているのですけども、単純比較はできないのですが、家庭用の燃料電池が大体700ワットから1キロワットぐらいです。そうすると家庭用燃料電池の大体160倍ぐらいのパワーを一気に出さなければいけない。そうじゃないと車にならないのです。
内田
ならない?
田中
且つ、一定の運転ではなくて、お客様がアクセルを全開に踏まれてフル出力を出さなければ、ゼロ-フルで応答性もよく出さなければ、当然乗っていても楽しくない。パワーを出して且つ運転性を応答性よく出すということは、それなりの技術を入れないとできない。それもコンパクトにする、いわゆる工業製品として作り上げるというのは、やはりものづくりの大変さ、それがこの技術のポイントですね。
内田
他にこだわったところはありますか?
田中
燃料電池は環境車なのですけども、「環境」だけでは本当の意味でお客様に選んでいただける車にはなかなか成り切らない。そういう意味においては走って楽しい車、「環境車だけれども、走りは本当に楽しいですよ」というところはこだわりました。燃料電池を低い位置に積んでいるので低重心である、更には重いものを車の中心部に積んでいますので前後バランスが非常に良い。この車はまだ水素ステーションが十分ではない中でお客様に買っていただけなければならないので、環境性能はもちろんですが、やはりお客様が本当に欲しいと思っていただけるような性能にすることが大事だと思いました。
内田
技術もものすごく工夫していて、技術者たちの思いは世界トップレベルである。そして乗り心地も楽しい、ということですけども、「水素社会」にはまだまだ未知数のところがあります。その中でトヨタが水素にこだわる理由は何なのですか?
田中
自動車にとってエネルギーにはいろいろな使い方があるわけで、電気が得意なところ、水素がいいところ、その辺りを考えた時に、我々自動車会社としては、いろいろなものを全方位で考える必要があるということで、水素だけにこだわっているわけではありません。ただ一方で、何故トヨタが水素をやっているのかというところについては、水素はすごく可能性があるエネルギーだと思います。どういう点かというと、水素はいろいろなものから出来ます。もちろん化石燃料からも出来ますけども、副生水素、化学工場で副生物として出来る水素もありますし、今まで活用されてなかったもの、例えば下水汚泥だとかですね、褐炭という非常に若い石炭からも作ることができます。更には再生可能エネルギー、風力だとか太陽光だとかそういうリニューアルエネルギーを使いましょうという話があるのですけども、このエネルギーキャリアとしての水素の可能性というのはすごく大きいと思います。
内田
日本は資源のない国ですから海外から輸入ができなくなったらアウトになる。でも水素を使いこなせるインフラがあれば、水さえあれば作ることができる。
田中
そうです。まさに内田さんがおっしゃったように、日本のエネルギーセキュリティを考える時、エネルギーキャリアとして水素という選択肢を持てることはすごく意味があります。自動車会社がこの水素で出来ることというのは燃料電池車。この車を作ることによって水素が身近なものになって、皆さんの水素に対するアレルギーもなくなって、水素の魅力を皆さんにわかっていただいて、そしてそれが大きなエネルギー政策に繋がればこの上ない喜びですね。
内田
ですからトヨタが水素をやり続けるというのは非常に重要なポイントで、ここをトヨタがやるか、やめるかによって日本のエネルギーの将来図は大きく変わってくるだろうと。
田中
ありがとうございます。そう言っていただけるとすごくありがたいのですけども、この燃料電池車は車の環境課題、いわゆるエネルギー問題だとか車のCO2排出量とかそういうものを解決する一つの答えではありますが、加えてエネルギーのあり方というものにまで及ぶ可能性がある。そういう意味においては、こういう車を作ることによって世の中に貢献できる。トヨタには元々会社ができた時にも、車を作ることによって世の中に貢献したい、それは産業報国と言いまして、産業を興すことで国や社会に貢献する、報いるという基本的な考え方があります。この燃料電池車はそういう我々の思いの表れだという風に思います。
昨年10月に開催された東京モーターショー2017ではFCVの新たなコンセプトモデルを発表、「MIRAI」から続くトヨタのFCV戦略を示しました。水素タンクの大容量化などで1000kmの航続可能距離を実現、移動空間としての魅力を高めるなど、さらなる可能性を示し続けています。開発担当の佐藤孝夫にお話を伺いました。
佐藤
これは次世代のプレミアムサルーンということで、我々の次世代を担うデザイナーたちが考えてくれたものです。2025年から2030年を想定した、いろいろな技術のスタディーモデルとして作ったもので、まずFCVというパワートレインで走る車ということと、その時代になるとAI、自動運転、コネクティッド、新しい技術がいっぱい出てきます。それを使いまして、車というのはもっと自由に楽しく運転できるようになるはずだと。そういった技術を集めた車の一つになっています。
内田
その開発をされたわけですけども、どの部分が一番苦労されたポイントですか?
佐藤
一つはパワートレインの「フューエル・セル」。これまだまだ出来たばかりの技術ですので、もっともっと効率を向上するというところがあります
内田
まだまだそれは進化の余地があるのですか?
佐藤
私どもが初めて「MIRAI」という車を商品化させていただきましたが、次世代に繋げてもっと小さくする、パワーを出せるようにする、効率を良くする、こういったところに研究の余地があります。
2018春には日産やホンダ、インフラ事業者などとともに水素ステーションの新会社を設立。本格的な増設に向けて動き出しています。トヨタが水素にこだわる理由、そして未来へのロードマップとは。
内田
本当に感心するのは、トヨタの水素というものに対する、ある意味執着と言いますか、継続性を持って取り組んでいくというところ。今の目先、水素エネルギー、FCVが利益を生んでいくビジネスかというと、残念ながらそうとは思えない。それをやるというところ、トヨタの水素への思いというのはどういうところにあるのですか?
秦
これからの未来にどういう世の中を残していくかという時、各企業が工場での排出CO2だとか、商品におけるCO2、これらを極力減らす目標を設定して取り組んでいます。我々トヨタ自動車も工場でのCO2、車で出すCO2、いろいろなところでCO2削減目標を作っています。これはもう「車が売れる、売れない」ということ以前の企業責任として取り組まなければいけないと思っています。ただその一方で、我々はモビリティを作ってお使いいただく会社なので、いわゆる車、モビリティを楽しむ、あるいは移動の自由を提供することも大事な使命になるわけで、そのバランスを見ながらビジネスを作っていく必要がある。今までは良い車を作って乗っていただくというだけで支えていただきましたが、もう少し前広に、社会インフラもきちんと整備をしながら水素燃料電池を広げていくというのが我々の目指す方向ではないか思います。
内田
これはやはり継続していくのだと?
秦
今すぐに水素燃料電池車が増えていくというのは難しいと思いますし、あまり急速にと言いますか、無理に水素の方向に舵を切っても、企業も採算性が厳しいし、ユーザーの方が不満を持ちながら使われるのも本位ではない。ということで言いますと、あまり無理をせずに、着実に目標を決めて長期目線で進めていくのが大事だと思います。
内田
今後の燃料電池車の展開は?
秦
この4年間の実証実験が終わりますのが2019年。その翌年には2020年の東京オリンピック・パラリンピックがあります。実は燃料電池のバスをこの東京オリンピック・パラリンピックの時に導入しようと思っています。それから今回ユーザーの方に使っていただいた燃料電池のフォークリフトももっと拡大したい。乗用車から産業車両、大型・小型トラック、あるいは定置型発電機だとか。産業車両や産業機器にこの燃料電池の展開を広げていければ、水素社会により近付くのではないかと考えています。
内田
オリンピック・パラリンピックは世界にアピールする良いチャンスになりますね。
秦
そうですね。日本からそういった取り組みが世界に発信できるといいなと思います。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
ゲスト
東海大学
学長 山田清志さん
1951年 香川県出身
1955年 北海道出身
1976年 早稲田大学法学部法律学科卒業
1984年 東海大学法学研究所 助手/ハワイ東海インターナショナルカレッジ学長、東海大学副学長を経て
2014年 東海大学学長・常務理事就任
建学から75周年を迎えた「東海大学」を特集。平塚市の湘南キャンパスを中心に、全国に展開する東海大学。18学部77学科・専攻という総合大学として、学術や経済、スポーツなど多くの分野で活躍する人材を輩出してきた。来年度には二つの新学部が設立されるという。ゲストに迎えるのは山田清志学長。パイロット養成を担う航空宇宙学科や、日本唯一の海洋学部など「さきがけ」として歩んできた歴史と、未来の姿を伺います。
内田
東海大学というと誰もが知っている大学で、とにかく大きなスケールをお持ちだと思うのですけども。
山田
日本の私立大学には東海大学と同じぐらいの学生数を持って、もっと多い大学もあります。むしろスケール感というよりも、たくさんの、日本で一番多くの学部を持っている、いろいろなメニューがあるということをもってスケール感というのであれば、そういうスケールが東海大学のスケールだと思います。
内田
たくさん学部を持つということの意義はどこにありますか?
山田
もちろん時代に合わなくなった学部については整理をしたりもしていますが、常に我々は今の、あるいはこれからの世の中にどういう学部が必要なのかということをもって学部を作ってまいりましたので、他の大学にはない学部や学科というのが、そうした学部の多さ、学科の多さを形成しているのだと思います。
内田
他のところにない学部をクリエイトする、それが学生を惹きつける、引き寄せてくる魅力の一つになっていると言えますか?
山田
我々の大学のモットーは「さきがけ」であること。例えば日本で最初に海洋学部という学部を作りました。今は文部科学省ですけど、当時の文部省からは「海洋学部という名前は存在していない。水産学部だとか、商船学科だとか、そういう風になっているだろう」と言われたのですが、日本は海洋国家であるならば海洋学部という名前があってもいいだろうということで、海洋学部というものを作りました。それもいろいろな学部を作る中での例ではございます。
独自の学部展開で発展してきた東海大学。その一つが工学部航空宇宙学科・航空操縦専攻。全日本空輸の全面的協力、国土交通省の支援、アメリカ・ノースダコタ大学との留学協定を得て、エアラインパイロットの養成を実施、在学中に、日米の操縦士免許を取得することができるという。2006年度に発足し、現在、世界的に不足するパイロットのニーズにも応えています。
内田
東海大学を卒業するとパイロットになれるという、そういうお話もありますけど、これは何でしょう?
山田
航空業界ではパイロットの人材不足ということが大きな問題になっています。日本の航空大学校で育成できる人材も限られていますし、何とか大学の中からそういうものをつくることができないか?ということで航空会社からのご要望で始めたのですね。ただ、これも何かフッと涌いて出たものではなくて、私ども東海大学の一番最初の形は航空専門学校なんです。
内田
まさに原点?
山田
はい、清水(静岡県)に航空科学専門学校という学校を作ったんです。創始者の松前重義先生はいろいろな種を我々の前に蒔いておいてくれて、その種が萌芽しないでいたのが何年か経って水を得て芽を吹くという。この航空科学専門学校は、太平洋戦争中の航空人材の不足を補う、つまりその時代に航空機というのは輸送手段としての一つの地位を固めていたわけです。ところがそういう人材は全部戦争に取られてしまう。そうすると民間の航空需要を満たす人材がいないということで、その学校ができた。ですから航空専門学校なのですけど、決して戦闘機乗りを作ったわけではないんです。それが戦争中にあったわけですけれど、戦後、旧制大学、新制大学を経て今の大学になった時には横に置かれていた部分が、当時の我々の先輩の先生方も、そう言えば昔やったのだからやってみようということで始めたのがこの航空操縦学のプログラムです
内田
そうだったのですか。
山田
ですから、先ほど申し上げたように我々の大学のスピリットというか風土として「さきがけ」であること、誰もやっていないのだったらやってみようというのが一つと、それからもう一つはどこかに昔、我々として挑戦したことがある、その記憶を一つの縁にしようという、その二つがこの航空操縦学を現在に導いたのではないかと思っています。
東海大学独自の展開の一つが「海」とのつながり。海洋調査研修船「望星丸」は日本で初めての開設となった海洋学部の実習と海洋調査・観測を目的に所有。日本の海洋調査船の中でも総合的海洋調査機能をもつ調査船であることから、文部科学省、農林水産省、研究機関との国家プロジェクトの調査船として数多くの調査研究を行い、レアメタルの発見など、得られたデータは様々な分野で役立てられています。
内田
東海大学は海洋調査研修船を持っているということですけども、これは?
山田
大学の名前に海が付いていますからね。
内田
「東海」大学、本当ですね。
山田
この東海大学の東海も、名古屋の東海とは違い、我々の言う東海は日本の東に広がる海、太平洋のことを意味しています。先ほども申し上げましたけれども海洋学部という今までにない名前の学部を作り、そこで船を用いて教育をしましょうということで大学の船を所有しているわけです。
内田
海洋調査というのはやはり必要なものですか?
山田
実は私、1984年に大学の助手として採用になったのですけども、その時に今の望星丸の一つ前の船が日本の経済水域の中で希少メタル、レアメタルを発見したのです。その鉱業権の設定というのをやりました。南鳥島辺りにマンガンクラフトとかコバルト団塊を東海大学の船が見つけて、これに鉱業権を設定すると。
内田
国益に繋がる話ですね。
山田
「先願主義」といって、先に見つけた人の勝ちですから、北緯何度とか、東経何度とかという情報が他の人の手に渡ったらその人の持ち物になるので、ものすごく緊張して大手町を歩いた経験があります。
内田
船を維持するというのはかなりコストがかかる。そこはしっかりとやっていくという、体力と志という話になると思うのですけど。
山田
大学として連綿と、海洋学部あるいは海洋調査研究というだけではなくて、この船は東海大学の学生教育にも使っているのです。文学部も、法学部も、理学部も、医学部も、短大も。
内田
乗りたい人が乗れるのですか?
山田
もちろん選抜はありますけれども、約100人くらいが1ヶ月半、狭い船内で寝食をともにするというのは大変な人間教育です。つまり規律を守る、社会人として要求されるようなものが。
内田
多様性の中でお互いをリスペクトしながら調和をしていくと。
山田
一部屋8人で。お風呂も2日か3日に1回で、洗濯物もみんなと一緒に洗う。水が足りないですから船は。
内田
今の若い子は一人っ子も多いですし、家で何でもやってもらってという、ある意味、過干渉というか過保護なイメージがありますけれども、それをみんなで集団生活をやっていくと。
山田
もう本当に出港式で見た子どもの顔と、帰ってきた帰港式で見たのは全然違います。これは話をしなくても立っている子を見ただけで、ああ成長して帰ってきたなと思いますね。
【ここにいつものラインお願いします】
建学から75周年を迎え、2018年度は新たに「文化社会学部」と「健康学部」学部を創設。創立者・松前重義氏が語る「若き日に汝の希望を星につなげ」の精神、その発展と継承を担う東海大学。次の25年、建学100年に向けた未来の姿とは。
内田
2018年に新学部を開設されるということですが、これはどんな学部ができるのですか?
山田
一つは「文化社会学部」という学部ですがこれは広報、メディア、あるいは心理・社会学、地域研究というものを文化社会学部の中に入れるようにしました。もう一つは「健康学部」という学部を作ります。日本でまだ健康学部という名前の学部はないのです。ありそうでない。
内田
ありそうで、ないのですね。
山田
これからの高齢化社会の中でますます「健康寿命」というのが重要視されてくるわけで、それを支える幅広い知識を持った人材を作ろうというのがこの健康学部の目的です。必ずしも高齢者を対象としているだけではなくて、今は「健康経営」と言われているようなこともありますよね?
内田
企業の評価の一つです。
山田
ですので、企業の中に健康を意識する土壌を作らなければいけない。それは必ずしも医師だったり看護士だったり栄養士だったり保険師だったりではなくて、普通の職場にいる方々が職場の環境にヘルシーコンシャスを吹き込んでいく。これは職場だけじゃなくて、自治体でもあるいはコミュニティーでも、あるいは家庭の中でもそういうことに気配りのできる人材を育成していく。一つの専門に特化したのではなくて健康に関するゼネラリストを作っていこうというのが、この健康学部の目的です。
内田
本当に「さきがけて」いるわけですね、これからの日本の社会に必要な。そういう意味で、文化社会学部ではメディアであるとか、地域社会の研究というところの人材育成、ここにもすごく興味があるのですけども、どういうところで活躍していくというイメージですか?
山田
メディアはまさにメディアですね。心理も心理カウンセラー、そういう専門家の部分ありますが、もう一つ大きいものに地域研究がこの文化社会学部にはあるのですけども、大変大きな地域で括りました。一つはアジア学科です。もう一つヨーロッパ・アメリカ学科。この二つの学科で地球の3分の2ぐらいを網羅してしまうのですけれども、それにプラスして、小さいですけども北欧学科を残しました。やはりこれも松前重義先生が高度経済成長を終えた日本が模範とすべき国の形に北欧があるというので、日本で最初に北欧文学科という学科を作りました。今はそれを北欧学科と呼んでいるのですけども、その北欧学科をこのまま維持し、更に発展させていこうと思っています。
内田
北欧というと「高福祉・高負担」、ゆりかごから墓場まで全部国が面倒をみる。けれども消費税などいろいろな税金が30%近いであるとか40%近いという、本当に自分たちの力で自分たちの生活をしっかり守っていく、そういう文化がありますよね?
山田
その「高福祉・高負担」というのが一つの呪文のように言われていると思うのですけども、東海大学は1970年からデンマークのコペンハーゲンに拠点を置いていて、私もそこで2年半くらい勤務したのですけども、確かにそういう部分はありますが。
内田
それだけじゃない?
山田
それだけじゃないです。今、毎月の最後の金曜日をプレミアムフライデーと言っていますけども、彼らは、これは言い過ぎかもしれないけど、毎日がプレミアムフライデーです。3時ぐらいになったら仕事を止めて、夏場はもう11時ぐらいまで明るいですから、それからヨットに乗りに行ったり、馬に乗りに行ったり、誠にうらやましい生活をしているわけですね。それで一人あたりの生産性は圧倒的に彼らの方が高い。だから我々はこれからの日本の生活の質を豊かにしていく、先ほどの健康もそうですけど、例えばこの北欧の豊かな生活の秘訣、秘密はどこにあるのかということを勉強するところとしても、この文化社会学部を位置づけたいとに思っています。
内田
他に新たに作っていこうとしていらっしゃることはありますか?
山田
新しいということではなくて、今までにあったものですけども、2017年の熊本の震災で農学部が壊滅的な打撃を受けて、今は仮の形で動いています。これを新たな形の、これからの日本の農業に新しい1ページを作れるような農学部を作ろうと、今教職員、学生も一丸になって、次のステージに向けての準備をしているところです。
内田
そうですか。どんなものを?
山田
九州ですので焼酎を造ったりもしています。「阿蘇乃魂」という焼酎でして、これは芋焼酎で原料になるムラサキマサリという芋を絞って焼酎のもとを作るのですが、その残りかすを我々が飼育している牛や馬や豚に食べさせて、そしてその糞を堆肥にして、それでまたムラサキマサリを作って焼酎を作るという、まさにゴミを出さない循環型の焼酎という名目で市場に出しています。
内田
環境にも優しい、地域にも貢献できるという東海大学の芋焼酎を是非ともいただいてみたいです。
山田
この次は持参します。
内田
よろしくお願いします。
内田
日本は少子高齢化ということで、子どもの数は減っていくという問題も含みながら、大学というものはどうあるべきか、何をやっていくのか。東海大学が更に100年、200年と続いていくためには何が必要なのか。
山田
東海大学は、もちろん国内でも一定の評価をいただいている大学だと自負はしておりますけども、私としては世界から選ばれる大学、世界に存在感を示せる大学になりたいと思っています。かつて日本の首相がトランジスタのセールスマンと揶揄された時代、日本の工業力は先進工業国から低く見られていたわけですが、それを先人たちが頑張って日本の電気製品メーカーの名前を言って知らない人はいない、日本の車の名前を言ってそれは何?と言う人はいないと思います。私は東海大学だけではなくて日本の教育は高等教育も含め大変素晴らしいものがある、あるいは素晴らしい素材を持っていると思っていますので、日本の高等教育も海外から認められる存在になりたい、東海大学としてはその「さきがけ」を歩んでいきたいと思っています。
内田
山田学長が目指していく東海大学の姿、次世代に残していく、託していくものは?
山田
私の座右の銘は「No Guts, No Glory」なんです。ガッツのないやつには繁栄はないと。このところ非常に豊かな日本の社会の中で、ともすれば内向き思考になったりしている中で、我々の大学が育成する人間にはガッツを持って世界に雄飛してもらいたいという風に思っています。それがこれからの日本を支えていく人材になっていくのだろうと思います。松前重義先生が晩年最後の授業の中で「明日の日本を支える人材を作るために東海大学を作ったのだ」とおっしゃっているのを今でも肝に銘じてこの大学で働いていこうと思っています。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
ゲスト
三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス株式会社
代表取締役社長 前川篤さん
1951年 香川県出身
1976年 大阪大学大学院 産業機械工学修了、三菱重工業入社
2006年 高砂製作所長
2008年 執行役員 原動機事業本部 副事業本部長
2013年 取締役 副社長
2016年 三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス / 代表取締役社長就任
フォークリフトやディーゼル・ガスエンジン、自動車向けのターボチャージャを軸にグローバル展開する「三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス株式会社(M-FET)」。2016年に三菱重工グループの独自経営合弁会社として発足した背景には「革新」というミッションがあった。今後大きく変化する「物流」と「エネルギー」にどう挑んでいくのか。前川篤社長にシナジーを生み出す経営戦略と未来の姿を伺います。
内田
前川社長は三菱重工のエネルギー部門というメインストリームを歩まれたエンジニアということで、タービンなどの大きいものを扱って来られた。そこからM-FET社長就任ということになったのですけども、これはどのように受け止められたのですか?
前川
エネルギーがメインストリームかどうかは別として、確かに約35年間エネルギーばかりやってきました。これは「受注品」ということで、お客さんから受注してから納める、こういう仕事をずっとやってきたわけです。それに対して私どもM-FETのフォークリフトやエンジンターボはどちらかと言えば「中規模の量産品」。ですからビジネスが全く違うわけで、ある意味では私にとって、個人的には非常に面白い。今までとはガラッと変わったビジネスで面白いのですけども、とは言えビジネスですから、それはしっかりしないといけないので、いろいろな意味で新しい思い、新しいコンセプトを入れながら経営していきたいと思っています。
内田
会社側としては前川社長にそれをお任せする狙い、そういう意味ではミッションをお持ちになってこられたと思うのですけれども、何が自分に課せられていると認識されているのですか?
前川
M-FETという会社には、一つはフォークリフトを中心にした物流という事業と、ターボチャージャやエンジンを中心にした事業という二つのものがありまして、これをどういう風に融合させるか。会社自身のミッションはエネルギーとロジスティックをうまく融合させて、それでお客様に喜びと感動を与えようと。これが大きなミッションです。今、アマゾンを中心に物流が激しく動いています。そういう意味で「モノを動かす物流」が日の目を浴びてきた。それがビジネスに繋がるという一面があります。それからエネルギーですけども、原子力が今の日本では停滞しているという中で、電力の自由化がありますので、大型の病院ですとかモールとか大学とか、そういうところに「分散型発電」と言いまして、必ずしも送電線を付けずに、その地域地域で分散して電気を起こす、こういうものが今から出てくると思っています。二つの観点で、物流と電力の自由化に備えたビジネス、企業ということでお客様を喜ばせるようなことをしていきたい。それとは別に、やはり会社ですから、従業員が1万人を超えておりますので、彼らに生き甲斐のある、夢がある、そういうような会社に是非ともしたいと思っています。
内田
フォークリフトとエンジン、ターボというものが一つのホールディングスの中でぶら下がっているというのは、わかるようでわからない。そこを敢えて括ったというところに何か意味があるのだろうと思うのですけども。
前川
元々、ターボチャージャはエンジンの一部品。大きなエンジンがあって、そのエンジンの排気ガスを使ってタービンを回して空気を入れるということで一部品、すなわちエンジンとターボチャージャは一対ですね。そのエンジンをフォークリフトに使うという意味で、モノとしては繋がっているわけです。エンジン・ターボチャージャ・フォークリフト、こう繋がります。それからもう一つの観点はフォークリフトが、三菱重工から見たら少し小さめになる、というイメージが多分あると思うのですけども。
内田
商品としては、あります。
前川
それを扱うのは、こういうものを使ってビジネスを大きくしていこうという意図があります。私どもは中規模の量産ということで、「中量産品」と呼んでいるのですけども、三菱重工の中では少し異質のものです。私がずっとやってきたタービンというのは比較的大きくて大規模で、お客さんも数が少ない。ところがこのフォークリフトにしてもエンジンにしてもターボチャージャにしても、皆さんがお客さんなのです。全くビジネスが違うわけですね。だから三菱重工でもそういう大きな受注品と中量産品、中規模の量産品をうまく融合させるのがこれからの時代、大事になってくるわけです。新しい会社というのは、その意味があると思います。
内田
一番テコ入れをしたいところですね。その中量産品のところを伸ばしていく、そこは本当に競争になってくるけれども、企業努力次第では伸びてくる市場だと?
前川
特に物流も伸びているし、電力の自由化で分散型も伸びていますので、そこをどう上手くするかですね。
内田
三菱重工グループの中では、新しいと言いますか、注目される部分?
前川
注目されるかどうかというのは別として、少し異質のところで間違いないと思います。
内田
これから三菱重工という会社が、どんどん変化していくというところの先駆け?
前川
ではあると思いますね。
内田
そういう中で、このターボチャージャというのが御社としての強み、優位性を持っているということですけども、その優位性というのを説明していただけますか?
前川
ターボチャージャというのは車、乗用車が中心なのですが、乗用車にターボチャージャをつけると出力が大きくなる。以前はスポーツカーで「出力を大きく」という時期があったわけです。ところがその逆を考えますと、小さなエンジンにターボチャージャを付ければ、同じ出力、トルクが出るということで、今ダウンサイジングと呼ばれているのですけども、エンジンを小さくしても出力が出る。「エンジンが小さい」ということは環境に非常に良いわけです。排出量が少ないわけですから。そういう意味でダウンサイジングによって環境を良くするという観点で今、いろいろなメーカーが入れてくれているわけです。
内田
スピードを早くするのがターボじゃなくて、軽量化にも寄与し、環境にも寄与するのが今のターボチャージャ?
前川
それが今の主流ですね。
内田
すごく伸びていると?
前川
伸びています。今、大体乗用車を1億台、年間で生産するのですけども、その3割から4割はこのターボチャージャ付きに全世界がなっている。特に中国を中心に早くシフトしていますので。
内田
やはり大気汚染に非常に意識がある。その中で御社はどれくらいのシェアを?
前川
今大体3割、30%位だと思います。30%と言いますのは、やはり全世界で強いメーカーがありますので、シェアが増えて変動することはないのです。
内田
ある意味、安定している?
前川
今は安定しています。それぞれの世界で強み弱みがありますので、分け合っているところですね。
内田
今、急速にEV化というのが進んできていて、内燃機関というものがピークアウトしていくというようなものが見えてきました。そこでこのターボチャージャはどうなのでしょうか?
前川
今が旬かもしれません。今は「脱炭素」とか「脱エンジン」と言われてEV化という流れがいろいろなところで言われていますけども。
内田
そこは来るだろうと?
前川
そういう時代になるかもしれません。例えばフォークリフトも同じように電動化、EVになるわけですけども、普通乗用車は1億台毎年生産するうち50万台ぐらいが今EVです。0.5%。ところがフォークリフト市場というのはもうすでに60%がEVになっていて、乗用車に比べて二桁も先行している。ですから我々自身はこれをうまく武器に使ってEVに行こうと、こういう動きにしているわけです。
内田
御社としてはEV化の波というのは、もう先行して理解していると?
前川
バッテリーをどういう風に使うかとか、モーターをどういう風に使うか、こういう技術が大事になってくるわけです。
内田
わかっているわけですね。今はまだターボで稼ぎながら、新しいフォークリフトの技術をどんどん高めていくという段階ですか?
前川
そういうことです。
フォークリフトを中心として、物流機器事業は世界第 3 位のシェアを誇る M—FET。フォークリフトの技術革新では、自動オペレーション機能の強化によって、倉庫内などの無人化、省人化をサポート。さらにリチウムイオン電池や燃料電池を使用し、環境に配慮したフォークリフトも開発しています。
内田
フォークリフトが成長していくという見通しでいらっしゃるわけですけども、この背景にあるものは何ですか?
前川
まず、こういうフォークリフトをなぜ我々三菱重工が作っているのか。いろいろなお客さんのところに行きますと、やはり今激しい。アマゾンを含めて物流の世界の中でお客さんが困っているのは、一つは人材がいないこと。トラックを含めて人材不足が叫ばれています。そういうことで人材不足に備えてどう無人化するかとか、自動化するか。これが要求されている事項です。二つ目はやはり物流ですから、荷物を運ぶという意味で災害が多い。その災害を減らす、安全に対する差別化技術をどうするか。これがお客さんの一番大きなポイントです。無人で動くためには、室内で言えばレーザーを部屋に三箇所に置けば自由自在に行ける。ここからA点まで行くと同時に、コンピュータでビッと変えれば、瞬時にA点からC点まで自動で行ける。そういうお客様のニーズに応じた自動化というのがある。また、今までは人がこのエリアに入らないようにするとか、人を教育するとか、そういう安全対策から、少しアクティブに、機械をうまく使いながら安全対策を先取りすることが要求されます。そういうところに対応するということで、無人化にしても安全に対しても「技術力がいる」ということで、社会に貢献していきたいと思っています。
内田
EV化であるとか無人化、自動化、IoT、フォークリフトというのはかなり技術革新が進んでいる。意外ですね。これからフォークリフトをどうやって売り込んでいくのかという戦略だと思うのですけど。
前川
人が乗る有人フォークリフト事業から少し視点を変えて、ちょっとうちのメンバーには怒られるのですけども、私が工場の責任者ならば、フォークリフトは少ない方がいいですよね?
内田
逆説的に、確かにユーザー側としては、ということですね?
前川
人が乗っていれば無駄だし、フォークリフトが少なければ少ないで良いですよね?ですから我々は全体のお客様の物流ソリューション自身をとらまえて、有人のフォークリフトは少なくてもいいと。その代わりに無人のフォークリフトを購入したらどうか、こういう全体のソリューションを提案する。こういうビジネスをしているわけです。さらに進みますと、お客さん自身の在庫を減らすために人工知能を用いて需要を予測する。そういうとこまで入っていければ、ただ人が乗っているフォークリフトを売ることから、上流と下流に大きく広げるとビジネスが広がるわけです。そういうことを模索していきたいと思っています。
内田
フォークリフトからいろいろなものが見えてくる。
前川
見えてきます。まず物流という観点で見ると思います。
内田
フォークリフトを売っていくというところ、で三菱商事との連携も始めたということですけども。
前川
フォークリフトだけでなく、我々M-FETというのはホールディングカンパニーでして、ここは三菱重工と三菱商事のメンバーが入りまして、そこでビジネスを展開するという風になっています。
内田
ホールディングスの中に人材がもう来ている?
前川
中規模な量産品、中量産品というのが少し不得意な分野だったわけです。大型の発電所とかプラントを作る、これは得意なところだったのですけども、B to BからB to Cに少し入るところが不得意だったので、そこで三菱商事と連携して、三菱商事の国内外の販売チャネルもうまく使わせてもらおうと。もう一つはファイナンスですね。こういうところが今までと違うところだと思います。
内田
大きい三菱グループの中での縦割りというか、それぞれのテリトリーを守ってきたという時代から、少しずつ連携していく、コラボレーションしていくという変化がすごく見えて、そこは非常に面白いというイメージがある。そういう意味で敢えてお伺いしたいのですけども、前川社長が目指す成功といいますか、ここまでは行きたいという中長期的なプランはどういう風になっていくのですか?
前川
まず事業としましては、2020年までに、今約7,000億ちょっとですけども、なるべく早い時期に1兆円にしたいと思っています。そのためには新しい事業、マーケットをどういう風に創出できるか。無人化の話ですとか、それからいろんな意味で新しいことに挑戦していく、これが一番大事なので、新規創出でどういう風に伸ばせるか、これが一つです。そう思えば、お客様がどういうことを思っているか、これがわからないと伸ばせない。今、物流にしても電気にしても激しく時代が変わっている中で、時代の流れをどういう風に我々が読みとれるか。それが難しい。これをしっかり読み取って、新商品を開発して、基本的にはお客さんに儲けてもらわないといけないわけで。
内田
そうですね。
前川
お客さんにまず儲けてもらうと。儲けてもらったら、それを少し我々がいただいて、それで開発に突っ込むとか、設備投資に突っ込むとか、有能な人を採用するとか、そういう良い循環を回せるような会社にできればと思います。そうすれば従業員の給料が少し上がるかもしれません。そして従業員が満足する。
内田
そういう良い循環を生み出していく。
前川
そのためにどういう風にお客さんの変化を読むかという、難しいのですけど、そういうところを目指したいと思います。
内田
自分が経営者のうちにこんなことやりたい、もっとこういうことやりたい、その目標に達するために何を克服していくのか。
前川
やはり人が一番の財産ですよね。ですから人の教育。私だけでもできませんし、営業なら営業、開発なら開発、その人がやってくれるので、そこをどう強化するかが全てだと思います。
内田
前川社長が社員の方に向けて繰り返し伝えている言葉というのはどういう言葉ですか?
前川
毎回毎回、毎週毎週、経営会議でメモを作って出すのですけども、経営を意識するということはお客さんのニーズと自分のポジションですね。どれだけの売り上げがあって利益があるか、これを絶えず中堅の管理職まで理解して欲しいと思います。そこから新しい発想が出てくるのではないか。難しいですかね、これは。
内田
しっかりと利益を上げていくビジネスをやるという?
前川
そうです。そのためにはお客さんが何を望んでいるのかをしっかり頼まれて、一回戻って、技術で相手をするということだと思います。
内田
そういう意味では、このターボチャージャでしっかりと利益を出し、更にフォークリフトで革新をしていって、面白い商品を作っていく。楽しみですね、そこは。
前川
この中量産品がなぜ三菱重工の中にあるかと言いますと、一つはこういう物流機器は経営の先行指標なんですね。一番景気が悪くなるのは建設機械とこういうフォークリフトですので、そういう意味では全世界のグローバルな地域ごとの景気を先取りする、これを受注品に反映させるというのがあります。
内田
グループ全体に貢献できるわけですね。
前川
それとやはり一番大事なことかもしれませんが、キャッシュフロー経営になったのですね。そういう意味では受注品のケースの、2年とか3年の、買い付けから利益リターンが返ってくるまでの長いビジネスと、こういう非常に短いサイクル、1ヶ月とか2ヶ月で資金を回収する、こういうバランスが大事だと思うのです。それから工場をご覧になったかもしれませんけど、ターボチャージャを作る自動の生産ライン、これは最終的には無人で作りたいと思うのですけども、こういう生産ラインは競争力、参入障壁の高さになると思いますので、こういうものをうまく受注品にも活かしていく。こういう観点が「中量産品が三菱重工にある存在理由」じゃないかと思います。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
ゲスト
株式会社大和
代表取締役 佐藤正道さん
1956年 横浜市出身
1979年 関東学院大学卒業後、アメリカに留学
1981年 帰国、大和入社
1999年 代表取締役就任
2017年 一般社団法人マンション計画修繕施工協会 副会長就任
「マンション大規模修繕」を特集。現在633万戸と言われる国内の分譲マンション数。10年前に比べ約100万戸増加し、現在では年間約10万戸が新たに供給されている。こうした状況の中、建築後10年から13年で必要とされるマンションの大規模修繕工事は、今後ますますの需要増加が見込まれている。一般社団法人マンション計画修繕施工協会の副会長も勤める「大和」の代表取締役・佐藤正道さんに資産価値を高める修繕の取組みと顧客から支持を得るサービスを伺います。
内田
マンション大規模修繕、よく聞きますけれども、大体どれくらいの予算で、どういう方たちがどういう風にお金を払っているのかという基本的なところからお伺いしたいのですけども。
佐藤
一言では言えませんけれども、工事の内容ですとか規模ですとか、そういうものによって違いますが、少なくとも数千万円から億単位になることが多いです。
内田
結構まとまったお金が動く。これはやはり住民の皆さんが出すということですよね?
佐藤
マンションの修繕積立金というのを区分所有者の皆様、住民の方々が拠出されて、それを貯めたものを住民の代表でありますマンションの管理組合様の発注で工事を請けて施工させていただくというのが流れです。
内田
大体何年ぐらいの間隔で大規模修繕はやっていくのですか?
佐藤
昔は10年に一度でしたけれども、今は建物がだいぶ良くなってきましたので、大体12年から13年に一度というのがサイクルになっています。
内田
そもそも大和がマンションの大規模修繕という事業に入っていくきっかけは何だったのですか?
佐藤
当社は塗装業として約60年前にスタートしたのですけれども、その時はゼネコンさんとか、地元の工務店さんがお客様で、そこから下請けとして塗装工事を請け負っていたという時代が長くありました。私が会社に入ってやるようになってから、元請けができる仕事をやっていきたいと、そういう風に思ったのがきっかけで、それがたまたまマンションの大規模修繕工事にたどり着いたということです。
内田
たまたま、なのですか?
佐藤
一戸建てをやってみたり、米軍の工事をやってみたり、官公庁の工事をしたり、いろいろやったのですけれども、マンションの大規模修繕工事が残った。同時にマーケットも非常に大きなものがあったというところですね。当時は下請け扱いというのがありましたから、今我が社では下請けさんなんて言い方はしないで、「協力業者=パートナー」として一緒に協力してもらっているという形をとっています。
内田
今、三代目として会社を継がれている。そもそも社長は会社を継ぐんだと若い頃から思っていらしたのですか?
佐藤
いやもう一切。大学を卒業してからアメリカに2年半ほど行っていましたけれども、それもホテル&レストランのマネージメントを勉強していました。
内田
その事業をやりたかった?
佐藤
興味があったのですね。実際その夢は叶いませんでしたけれど。でも今の仕事が大正解だと思っています。
内田
でもある意味、おもてなしというか、喜んでもらいたいという、そういうところはあるのですか?
佐藤
はい。もう私どもは建設業じゃなくてサービス業だと思っていますので。
内田
本当はホテル、レストランをやりたかった青年がアメリカまで行って勉強したが、家を継ぐという風に気持ちが変わったわけですよね?これは何があったのですか?
佐藤
二代目の母親の具合が悪いということを聞いて、向こうを畳んで戻ってきて、開口一番「もう散々やらせてもらったので会社継ぎます」という風に言って。どれだけ喜んでくれるかなと思ったのですけど、「冗談じゃない」と。「会社を誰に継がすかは私が決めることだ」と。どうしても会社に入れてくれというならば、頭下げて言うなら入れてあげると言って、一本取られちゃったわけです。
内田
それで、そこは「入れてください」と?
佐藤
頭を下げました。
内田
そうだったのですか。そこから今の大和がある、非常に成長してこられているということで、今、神奈川県の中で大規模修繕工事の元請けのトップ企業になったという。これはすごいことだと思うのですけども、ここまで成長できた理由というのはどこにあると思いますか?
佐藤
やはり社員を大事にして、そしてその人たちが大事にされた分、会社にどういう風にしたらプラスになるかといろいろな工夫をしてくれるわけです。そして協力業者の皆さんも社員と同じように大事にしていることによって、お客様であるマンションの管理組合様、または居住者様に少しでも快適にしていただけるような環境で仕事をしてお届けするという、そういう私の会社の風土みたいなものの積み重なりではないかと思います。
横浜市南区にある大和本社ビル。オフィス内の壁に掛けられているのは、これまでに修繕工事を行なったマンションの管理組合などから送られた感謝状。自社のサービスに対する「高い満足度の証」、と佐藤社長は言います。
内田
感謝状を貰うのというのは、なかなか大変じゃないですか?
佐藤
そうですね、それを貰おうとして頂けるものではありませんので。現場の管理者、また職人さんたちが、自分が知っているノウハウと技術を持って仕事にあたり、なおかつ、ご挨拶がきちっとできる。エチケットやマナーに対しても「職人さんってこんな感じだったの?」と言われるような教育、意識改革をやっていますので。工事が終わってネットが外れて、足場がばれて、「はい、引き渡しです」と言ったときに、お客様によっては感謝状と同時に慰労会みたいなのを開いてくれるような組合さんもいらっしゃって。本当にやっていて良かったなと。
内田
そこでお客さんの信頼を勝ち得てきた。そこには多分、大和の強みというところがあると思うのですけども、どこが他社と違うのか?
佐藤
仕様書通りにしっかり良い仕事をするというのは「当たり前」のことで、それとは別に、お客様の痒いところに手が届くというような、ちょっと工夫をしたりとか、ちょっとアイディアをプラスすると、皆さんに見える成果が変わってきたりするのかなと。当社では施工させていただいている工事の最中に住民の皆様の許可を得て、マンション専用のブログを立ち上げて、今どんな工事をしています、今どういう風に問題が起きていますとか、例えば洗濯物は明日は干せます、干せませんとか、今日は何人作業員が入っていますとか、そういうものがパソコンですぐに見られる、スマホでも見られるというのを、もちろんセキュリティをかけて開設しています。
内田
非常にありがたいですね、そういう「視える化」して情報共有できて。
佐藤
これも私どもの社員のアイディアで実践してきたものです。
内田
自分たちのマンションの価値を維持する。もっと言うとバリューアップしたいということころがあるわけですよね?
佐藤
長期修繕計画というものがありまして、それに基づいてきちっとタイミング良く、早過ぎもなく、遅くならないで、きちっとメンテナンスですとかリフォームをしっかりやっているマンションというのは価値としても下がらないと思います。結局そういうケアをしているマンションというのは、ご年配になって一戸建てに移りたいっていった人がいたときにも、また若い人が買ってそこに入って、管理組合の一員になって、どんどん若返りしていく、そういう傾向にあると思います。
内田
マンションを新築で買って1週間経てば値段は半分になると揶揄されるくらい、日本では年数とともにマンションなり住宅の資産価値が落ちていくということが当たり前、仕方ないという風に我々は思っているわけです。でも欧米を見ていくと、しっかり年数を刻んでいけばいくほど価値が上がっていくという住宅があるわけですよね?
佐藤
そうですね。
内田
日本ではそういうことは無理なのか、という風に思っていたのですけども、そうではないと?
佐藤
必ずしもそうではないと思います。これからいろいろなノウハウを駆使して、設備の面とか古くなって20年30年と経つといろいろな不具合が出てきますけれども、そういうものにきちっと手をかけていくことによって資産価値を上げていくことは可能だと思います。例えばエントランス一つとっても、ただ素通りしていたエントランスを、今の新築のマンションはオートロックですよね?素通りしていたような古いマンションにもエントランスのリノベーションによってそういう風にできる。もしくはホテルのエントランスのアプローチのように直していく。そういうことも含めてイメージアップがすごく大切だと思います。
大和が毎月行なっている「勉強会」。対象となるのは工事現場で監督に当たる「現場代理人」で、大和の社員に加え、協力会社からも参加します。この日は専門的な工法や現場でのマナーについて60人が講義を受けました。
内田
お客さんにより良い提案をしていくということになると、やはり他社よりも抜きん出るというか、秀でた人材、社員というものが必要になってくる。その社員教育というのはどういうことをやっていらっしゃいますか?
佐藤
当社では月に一回勉強会というのを開いていますけども、それはいろいろな新しい工法を勉強するとか、新しい法律を勉強するとか、エチケットとかマナーとか挨拶とか笑顔とか、または服装とか、そういうもので昔のイメージの職人さんではなくて、本当にうちのマンションをしっかりメンテナンス、またはリフォームしてくれる職人さん、自分たちのために動いてくれている人、という印象を持っていただくのがすごく大事だと思って日々実践しているところです。
内田
気になるのは、これは建設業界全般の人手不足、労働者不足というのが深刻で、なかなか解決の目処も立たないという風に見える。その一方で、これからマンションの修繕件数というのはおそらく増えていくだろうということ。大変なビジネスチャンスが待っている、でも人手が不足である。ここはどうしていきましょうか?
佐藤
建設業の人手不足、または高齢化、そういうものを本当に身近に感じているところです。政府や国土交通省もいろいろな対策を練って、例えば職人さんでも社会保険等々の福利をきちっと受けられるようにしようとか、または働き方改革という言葉が今出ていますけども、少しでも時間を短く仕事をさせようとか、もしくは土休、週休2日にしようとか。これはなかなか一朝一夕にはいかないのですけども、ただそういう取り組みもしていかないといけないと思っています。
内田
佐藤さんはマンション計画修繕施工協会のリーダーをされている。協会としても積極的にそういうものを促していくと?
佐藤
時短の問題ですとか、社会保険の加入問題ですとか、積極的にやっています。
内田
これからまた大和は更に成長していくということですけども、佐藤社長が考える大和の未来の姿、これからどういう会社にしていきたいですか?
佐藤
先程からもずっと言っているように、社員あっての大和ですので、社員が本当に豊かな生活ができるように、またその家族が本当に満足できるような形を作っていきたいという風に思っています。お金だけじゃありませんけれども、お休みをフレキシブルにしたりとか、代休を取るのに恥ずかしがらないとか。そういう風にやっている社員が今度お願いする協力業者の人たちというのは、そういうのを見ていますから、私たちもその協力業者の会社も、また作業員の人たちも同じように豊かになってもらいたいと願っています。それを感じ取って協力していただいているというところがあると思います。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)