神奈川ビジネスUp To Date
ゲスト
横浜 山田の花火
専務取締役 山田洋右さん
【プロフィール】
1977年 横浜市出身
1996年 大学在学時より花火打ち上げに従事
2000年 株式会社ヤマダ入社 長野県の花火工場「篠原煙火店」で花火製造に従事
2004年 専務取締役に就任
夏を彩る「都市型花火大会の今」を特集。地域活性化につながる一方、警備など様々な理由で休止・中止となる都市部の花火大会。クラウドファンディングの活用など継続に向けた可能性が模索されています。70年近く大規模な花火大会の打ち上げや演出を担ってきた横浜山田の花火・四代目の山田洋右専務に、思い描く花火の在り方を伺います。
内田
「横浜 山田の花火」ということで、横浜の方には非常に知名度があると思うのですけども、70年近く花火の打ち上げを担ってきたということですが、そもそものルーツはどこにあるんですか?
山田
私の曽祖父にあたる初代の(山田)阿久利が、戦後当時横浜が焼け野原で何もない時に、仕事をどうしようかと。その時にうちのちょうど近所が米軍の接収の地域で、アメリカ人も当時娯楽に飢えていた。そこに目をつけて、まずはおもちゃ花火を売ってみようというところから。そうしたらアメリカ人にすごい好評で、「アメリカの独立記念日に花火を打ってくれ」と。それで打ち上げ花火も始めたり、そこからがスタートになります。
内田
確かに米軍も、もう焼け野原になっていて、ものがないところで退屈していたのでしょうね
山田
そうですね。その流れで日本を復興していく中で、横浜市民にも楽しんでもらえるような花火大会というのが、その後に繋がってくる。やはりその辺りが大きな切り替わりの時期だったのかなと思います。当時、全く日本人向けには花火を打てなかった時期なので。横浜という場所だからこそ、米軍に接収されていたからこそ、花火が打てた。
内田
そこを曾おじい様が引き受けてやったというところから、ある意味横浜の花火の歴史というのが始まっているっていう。何か誇らしいというか?
山田
そうですね、それは本当に思います。
内田
そういう流れの中で四代目ということですね?花火を打ち上げるという、そういう家に生まれて、どういう気持ちで見ていたのですか?
山田
「花火屋の息子」ということで、皆、継ぐのではないかということは思っていたと思うのですけど、自分の子どもの頃は、小学校の夏休みで皆、「どこどこに行った」と、絵日記とかで書いてくると思うのですけど、うちの父親はもうずっと仕事で、もう特にどこにも。
内田
真夏が稼ぎ時ですからね。
山田
そういうこともあったので、「ちょっと花火屋をやるのもどうかな」というのは子ども心に思っていたのですけども、大学に入って夏休みに花火のアルバイトとして手伝っていくにつれて、お客さんの歓声とかを聞きながら、まあちょっと花火に魅了されて、それで花火の仕事をやろうというのは決めた感じですね。
内田
何にそんなに惹かれたのですか?
山田
花火の準備はかなり地味な作業で、炎天下の中で重い筒を持って、火薬も危ないですし、そういった裏方の仕事なのですけども、実際に花火をあげて、空に上がる花火を何十万人の方が見て、その歓声が直接耳に入ってくるというのは、やはりすごく刺激となりますし、「感動した」という声を聞くのが、自分としても感動する。そういう気持ちになれる仕事ってなかなかないのかなと。
内田
打ち上げる場所というのは、皆さんが見ている場所からずいぶん離れた場所のところにあるわけですよね。そこで、花火を打ち上げる音もすごく大きいじゃないですか。それでも遠くから歓声が聞こえてくると?
山田
はい、そうですね。
内田
「俺が上げているんだぞ」っていう感じになりますよね。
山田
そうですね。やっぱりちょっとしびれますね、はい。
7月に山下公園で開催された「横浜スパークリングトワイライト2017」。 そのメインイベントが二日間にわたって打ち上げられた「スパークリング花火」打ち上げを担うのはもちろん「横浜 山田の花火」です。
内田
横浜スパークリングトワイライトの花火を拝見しました。いつも花火大会というものを見ていて思うのですけども、打ち上げる順番であるとか、その瞬間に何発一緒に上げるのかとか、演出というものがあるわけですよね。そういうものも山田の花火さんが考えていらっしゃる?
山田
そうです、私が考えております。
内田
ご自身が考えてらっしゃる。これはどういうポイントといいますか、工夫というものがあるのですか?
山田
まずは、うちの会社が横浜の街中にあるということで、花火工場が地方じゃないと花火が打ち上げられない。うちも以前、昭和30年頃までは横浜の外れの方に花火工場があったのですけども、近隣が宅地化されて花火が作れなくなった。逆にそれで全国の花火名人、いろいろなところから花火を仕入れる。各花火職人さんの個性のある玉というのがありますので、そういったものをまず、どういう風に生かしていくかというところを一番強く考えていまして。やはり職人さんの作った玉に本当に心を持って、それをどう生かしていくかという、その花火を本当に生き物として生かしていく、それをお客さんに伝える、殺さないようにどう演出するかというところ、そこを一番強く考えております。
内田
それをどう演出していくかですよね。前半・中盤・後半とパターンがあるような気もするのですけども、「一番工夫している」というのは、どういうところにあるのですか?
山田
お客さんが飽きないように、というのを一番に考えていますので、やはりメリハリ。ずっと単調にあげていても面白くないでしょうし、バンバンバンバンとずっと上げても面白くない。オープニングでまず華やかにやったら、その後はしっとりと、とか、子どもが飽きた頃にはお子さんが楽しいような、スマイルマークとかハートとか、そういうものも入れたり。それで最後はもうバーッと、もうどんどんどんどん上げていくという。その花火大会によって演出は考えていますね。
内田
これは大体中盤ぐらい、先ほど言った「子どもがそろそろ飽きてきたころに」ということで、にこちゃんマーク。ハートであるとか。すごく盛り上がっていましたよ。
山田
どうしても花火が平面な花火なので、見る角度によってわからない場所もあるわけです。それなので何発も同じ玉を打って。
内田
なるほど、数発打ってわからせる、みたいな?
山田
例えば正面から見ているお客さんからは見えても、横から見ているお客さんは平面に出てしまう。そういうリスクもあるので、逆に「何だろう?」という風に楽しんでもらうのも、またコミュニケーションで面白いと思うので。
内田
何だかよくわからない形だとは言っても、最後はどうしても何発も上げていかないと皆、気が済まないという部分で、最後のフィナーレというのは大体何発ぐらい?
山田
最後だけでもう数百発まとめて打つような。もう花火大会の中でも本当に一番密度の濃いところなので。
内田
そこはちゃんとお約束通りにやらないと。
山田
やはりそこが皆、期待しているところなので。最後は枝が垂れてきてという花火が多く、こう垂れ下がってくるというのが皆思っていることなので。
内田
最後の最後、静かに落ちて消えて終わると。
山田
そこは裏切らないように、とは思っています。
内田
準備の段階も拝見させていただいたのですけれども、すごいなと思ったのは、全て電気で点火するわけですよね。その準備段階で最も大変な部分っていうのが、配線するという電設作業。あの機械はどこのものを使っていらっしゃるのですか?
山田
点火機は今アメリカ製のものを使っています。日本は元々ゆっくりと一発一発打つ、観賞型の花火大会というのが日本の特徴で、アメリカはショービジネスということがあって、例えばラスベガスとかで火薬を使ったショーもありますので、そういう細かいタイミングで演出するというのは、アメリカが最先端。そういうところで使われている点火機を日本の花火に応用して使わせてもらっている、こういう形です。
内田
そういうものを取り入れて、日本の花火大会も随分ショーアップされてきた?
山田
6月に横浜青年会議所が動いてくれている「横浜開港祭」というイベントがあるのですけども、そこでの花火というのは音楽に合わせて、レーザー光線や照明とかと合わせる、本当にショーとしての花火。そういう位置づけになっていまして、そうなると本当にもうコンピューター・プログラミングというのは非常に重要になってきます。
7月19日に開催された「鎌倉花火大会」。一度は中止が決定されたものの、大会を継続したいという想いから、クラウドファンディングの活用や地元企業を中心に協賛金を集め、開催を実現しました。開催方法や地域のあり方にも課題を投げかける都市型の花火大会。その未来の姿を探ります。
内田
全国で大小、様々な花火大会が行われていて、山田さんから見て、日本の花火大会の現状というのはどの様に写るのですか?
山田
全国的に、地方の花火大会というのは本当に盛り上がっていると思うのですけども、東京・横浜という都市部の花火大会というのは警備面、お客さんが集まり過ぎるとか、安全面を考慮して休止というところも最近出てきていまして。横浜もみなとみらいの大きい花火大会が昨年でいったん休止ということにもなりましたし、なかなかちょっと厳しい時代なのかなというのは感じます。ただですね、もちろんみなとみらいの花火大会が同じように復活で動いてくれて、そういう風に復活となったら本当にありがたいことだと思うのですけども、夏の大きな花火大会というのとは別に、横浜という町で考えますと、夏に限らず秋冬でも、10分でも20分でもいいので、ちょっとずつ週末に花火が上がるとか、ちょこちょこと花火が上がるのが当たり前、そういう環境というのが整ってきたらまた面白いのかなと。
内田
なるほど。
山田
やはり長時間だとどうしても、道路を止めなきゃいけないとか、警備的にも大変だと思うのですけども、例えば今、東京のお台場で冬に毎週末10分間花火を打っているのですけども、もう本当に10分だけでも、周りの飲食とかホテルとか、お客さんが集まってくると思うのですね。かといってすごく集まり過ぎるわけでもなく、トラブルにもならないぐらいの、程良い花火というのが、横浜でも季節を問わず出来るような環境になってきたらいいのかなというのは思っています。
内田
毎週何曜日なのか、毎月何日なのかわからないですけども、そこに行けば必ず横浜で花火が見られるという風に、いろいろな人に周知していくというのは、すごく楽しみが増えるというか。
山田
そうするとホテルの宿泊も増えるでしょうし、中華街で食事をしたりとか、いろいろなところで飲食するお客さんも、横浜も町も盛り上がっていくと思うのですね。やはり1回きりの花火大会とは別の形というのがあってもいいのかなというのは思っています。
内田
港と一体化していくというか、スペシャルなものもあってもいいけれども、日常的なちょっとした花火大会を定期的に運営していくためには、どんなブレイクスルーが必要になってきますか?
山田
そうですね。ただやはり、海でやるとなると、いろいろと安全面のこともありますし、船が集まってくるとかもあるので、まずは安全面が確保できるというのが大前提だと思うので、その辺を皆さんに動いていただいて、スポンサー、協賛のこともありますし。どうしても花火屋はそういうものが整ってから仕事いただく側なので、本当にもうお願いするのみなのですけども。
内田
はい。
山田
あとはお客さんのマナーですね。ちょっと言いづらいところでもあるのですけども、やはり大きい花火大会がなくなるという、一つの大きな要因としては、どうしてもお客さんが座っちゃいけない道路で花火見るとか、ゴミを残していくとか。そういったところを一人一人のお客様が皆さん気にかけて持っていただくというところがあっての花火大会だと思うので、そういうところは本当にお願いしたいところだと思っています。
内田
花火がすごく特別なものになると、様々なことが「準備だ、警備だ、許可だ」ということで大変になっていく中で、身近にもうちょっと小ぶりなものが増えるといいのでしょうね。
山田
はい、そう思います。
内田
花火は大小ありますけれど、一発いくら位なのかとか、花火大会全体でどの位の予算がかかるのかという数字の部分も聞いてみたいのですけども。
山田
どうしても皆さん、花火大会で上がる花火って一発何十万もするんじゃないか、という声を聞くのですけども、実際尺玉でも大体5万円から10万円。ただそれは本当に大きい玉で、小さい花火ですと、数千円の花火もあります。例えば地域のお祭りとかでちょっとした花火をやりたいというお話がある場合は、保安距離というのがあって、半径50mのスペースさえあれば、もう本当に10万円ぐらいあれば数十発の花火が打てる。そういった仕事も結構増えていますね。
内田
意外ですね。もうちょっとお金が掛かるのかなと思っていましたけど。
山田
数十発、10万円ぐらいあれば、起承転結でいろいろと花火の演出もできるぐらいの花火の量になりますので、身近でそういう花火も面白いかと思います。
内田
もうちょっと売り込めば、ニーズはまだまだ増えるような気がしますけど。
山田
例えば港じゃないところで言いますと、横浜市内でもいろいろな団地が多くて、どうしても、もう30年40年経って高齢化していって、もう二世が皆さん独立されて、なかなか寂しくなっているというところで、夏祭りで花火を打ち上げるという機会があると、その花火大会にあわせて皆さんが地元に戻ってくる。そして孫を連れてくるという、そういうすごく良いお話を聞きまして、それから本当にどんどんと団地の祭りが活性化して、数も増えていってとか。やはりそういう町、地域に根付いた花火というのも、これから大事にしていきたいなと思っています。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
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インプランタイノベーションズ(横浜市)
ゲスト
「工業の宮大工」
サーフ・エンジニアリング 根本秀幸さん(写真中央)
ジェイテック 髙津浩二さん(写真右)
土居 土居広之さん(写真左)
「匠の技の連携」を特集。技術力のある町工場の減少が進む中、綾瀬市の町工場を中心に、機械加工業のものづくりネットワーク「工業の宮大工」がスタートしました。1社では受発注できなかった難加工などに対応していくという。なぜ今連携が必要なのか、目的は何か。中心メンバーとなる3人の匠に設立の背景と現状を伺います。
内田
工業の宮大工という素敵なグループ名ですけれども、このグループの設立の発起人が根本さん。何故こういうグループを立ち上げたんですか?
根本
元々、繋がりがあった仲間ではあったのですけども、敢えて意識をしていくような仕事が出てくる中で、また各社と話していく中で、きちっとした営業が、周知を含めて、必要だという声も無くはなかったのですね。きちっとした言葉で、“キャッチーなフレーズ”というのも大事かなと。そんな中で、「宮大工」という組織で表現してみたというのが今回の経緯です。
内田
非常に魅力的だし、キャッチーであって、「えっ、何の集団?」という、そういう掴み方というのは非常に上手だなと思うのですけれども。でも「工業、でも宮大工」という何か違和感というか、面白みという、このネーミングの意図するところは?
根本
各社ですね、特色を持った、強みのある技術を持っているんです。職人過ぎるぐらい職人なので。
内田
もう「匠」?
根本
「匠」ですね。プライドも「匠」なぐらいありますので。そういう意味では、お客様との折衝でも限られてくる部分があったりするのですけども、それを標準化する、全体的に、交流的に仕事を取るということも非常に大事であろうという、こういう問題意識が浮き出てきた感じもします。
内田
皆さんのような技術を持っている会社は、今まで自分の足で立って独立独歩でやれるということでプライドもあった。ここにきて、「連携してみようか」と、ある意味心変わりというか、気持ちをオープンにしてこられて、このグループの結成っていうことになったと思うのですけども、何故この呼びかけにお応えになったのか。髙津さんは何故そう思われたのですか?
髙津
僕たちで作っているものは本当に価値のあるものだ、意義のあるものだというところを皆に知って欲しいし、これからやっていただくであろう、若い人たちにも知って欲しいと、やはり「ものづくりって面白いよ」って。やらされているのではなくて、「やってやる」っていう。僕ら堅いものを扱っていますけど、それを支配するような面白さというのは、やっぱりあると思うのですね。それが「宮大工の集団」であるという風に僕は思っていますので、その部分をもっともっと知っていただいて、「綾瀬」というところにも、そんなこだわりを持って、宮大工のように「こだわりを持ってやっている会社があるぞ」っていうところを皆さんに知っていただきたいですね。
内田
若い人に是非引き継ぎたいという、後継者の問題が大きくあるという問題意識ですか?
髙津
若い子たちが付いて来れない、若い子たちが入ってくれないという。どうしても大きな会社であったり、名前の通っているような会社に集まってしまいがちですけど、町工場でも、そういう大きなものを実は支えているんだよって。僕たちがいるからあるんだというところを、ものづくりを通して、若い子たちに、価値というものをちゃんと教えてあげたいという風に思います。
内田
「技術の素晴らしさ」ですね。
髙津
そうですね。
内田
土居さんは何故このチームに入ったのですか?
土居
今までになかった組織のあり方みたいなもの、町工場同士が力を合わせてという、そういう形を味わってみたいというか、経験してみたい。どんな形になっていくのかという、ちょっと夢のあるような言葉を作ってもらったので、是非参加しようと思って。私にも出来ることがあるかなっていうところですね。
内田
そういう連携することのメリット、強くなっていく、競争力を持っていくというところと、一方では、皆さんすごい企業秘密とも言える技術を持っている。そこで連携することによって、ある程度見せていくということのリスクもあるのでは?
髙津
リスクというものは、特に感じたことはなかったですね。やはりお互いの知らないところを知る、指摘していただくというのはとても有意義ですし、それがモノに繋がっていきますから。できたモノに繋がっていくというのは大変大きなことですから、それを見てもらってでも、見せてでもですね、やはり「良いモノを作っていくんだ」というところですよね。
内田
もっと言うと、「ちょっと見せても同じことはできないだろう」というプライド、自信もある?
髙津
そうですね。やはりもう何年何十年、この仕事をやっていますから、それをパッとやられないという自信はありますけど、でもそれをみんなで共有して、皆で良いモノを、とにかく良いモノを作っていく、町工場から良いモノを出していくっていうことだけですから。良いモノをとにかく作っていって認めてもらうという。
内田
広く知ってもらう?
髙津
広く知ってもらうということですね。
内田
土居さんどうですか?
土居
「宮大工」の仲間であれば、やはり安心して、信頼して自分の技なり加工方法なりも、逆に見せることができると思いますね。我々がこれから「宮大工」の仲間を集めていくときに、信頼できる仲間であるというのがとても大事かと思います。「リスクは逆に持たなくても大丈夫な仲間なんだ」という、その心意気というか、そういう人柄であるというところで、安心して参加していただきたいと思います。
内田
大事なのは、共有できる心意気であるとか、精神性の高さであるとか、そういうところだっていう。それぐらい、ちゃんとモノづくりをやっている人間だったらわかるだろうと?
土居
そうです。「宮大工」を続けていこうと思っていれば、仲間の危機に繋がることを考えるということもないかと思います。
内田
これから「宮大工」のグループを広げていくにあたっては、メンバーを精査していく、選んでいくという必要がありますね?
根本
そうですね。どこまでも高品位を、品質の高いものを担保できるというのが、もう絶対の約束ですね。「100%のものを99%」でも駄目。100%で押さえ続ける、納め続けるような感覚ですね。それとあくまでこだわりを持ったモノづくりはいいのですけども、お客様優先、お客様ファーストという部分、これもずっと昔から変わらず持っていないと。
内田
日本の製造業、モノづくりの環境が大きく変わってきている。ちゃんとモノが作れる方というのが、どんどん減っていって、事業継承もできずに無くなっていくと。そういう意味で言うと、残っている方たちの価値というのは絶対高まっていくと思うのですね。
根本
実際、昨年夏からホームページをリニューアルしていく中で、特に初期段階で(問い合わせが)多かったのは、日本の大手様ですね。エンドのトップのメーカーさんから来る話が非常に多くて。それもわかり易い図面で流してくださる。「何十年にわたって下請けさんの会社に流していたのだけども、実はもうそこが廃業してしまった。同じものを作らなきゃいけないのだけどもできますか?」という。私はなるべくお互いにとって手短な方が良いので、「ご希望のご予算はありますか?」というのをなるべく聞きます。丁寧に教えてくださる方もいます。それで愕然とするのですね。「この値段でやられていたのですか?何十年もそれで?」
内田
すごく安い値段で過去の会社の下請けさんはやっていらした?
根本
そうです。「すいません、それは廃業しますよね。後継者が出る値段にはならなくないですか」と言うと、「いや、実はそうなんです。3人4人でやっている会社で。何とかうまく回してもらっていたけど、もう歳で後継者もいないから辞めるといってノウハウごと全部廃業されてしまった」と。もうさすがに忍びないのですけども、「申し訳ないのですが、今の値段でいきなりこれを供給するというのは多分不可能だと思います」と。
内田
率直に言うと。
根本
メーカーさんの方にお伝えします。そうすると「やっぱりそうですか」と。もう何軒も断られて、悩んで、悩んでホームページ上で私のところに辿り着いてきたと思うのですね。今までだったら、ある意味サプライチェーンの中で、器用に付属で、セットで振っていた。でもそれもやりづらくなる中で、見直しをしようという新たな挑戦、試みだと思うのですね。ですから私もそれは断るのではなくで、もう一回、試作的にやるだけのタイミング、予算、物量があるかとか、この辺を検討してある程度お互いのターゲットプライスを定める、創造的にやっていくことであれば可能かもしれませんという話でお応え申し上げる場合が多いです。これが1件2件じゃないです。本当に日本の各業界の鉄関係のメーカー様が同じことで悩んでいるというのが嫌というほどわかりました。
「工業の宮大工」で核となるのは各企業が持つ「独自の技術力」。設立の中心としてリーダシップをとるサーフ・エンジニアリングの根本秀幸さん。大型長尺旋盤と呼ばれる金属加工や、アルミ溶接を中心に展開。また、橋脚などのインフラの点検ロボットの開発にも注力し、事業の幅を広げています。
ジェイテックの髙津浩二さん。真鍮のワイヤーに電流を流して、金属を高精度に加工する「ワイヤーカット加工」で、この道30年以上という髙津さん。コアとなる技術は「加工中の材料の変化を読む力」。金型部品を中心に、自動車関連の精密部品を製作しています。
厚木市で「横中ぐり加工」を手がける「土居」の代表、土居広之さん。粉砕を中心とした工業製品の穴ぐり加工、フライス加工などを得意とする30年のベテランです。匠の技は、「精密加工に至る段取りとセッティング」。巨大な製品をいかに加工するか、空間の把握が鍵になります。
「工業の宮大工」、中心となる3人の匠に、モノづくりを取り巻く環境と、その心意気を伺います。
内田
「工業の宮大工」ということで「匠」、すごい技術を持っているのだろうと思うのですけれども、ここは譲らない、もう徹底的にこだわるところ、そういうものがあったら教えていただきたいんですけど
根本
「品質の担保」ですかね、3社とも。「あちゃ」って話はないですね。この品物見て、「あちゃー」って。
内田
自分が納得しないものは絶対出さない?
髙津
それはそうでしょうね。それを出すのはやっぱり恥だと思っていますから。
土居
恥ずかしいですよね。
髙津
恥ずかしいんですよ。でも、良いモノができると、ちょっと渡したくないといいますか。
土居
そうそう。
髙津
だから、ちょっと良くできたな、飾っておきたいなって思うときがあるんですけどね。
根本
私だけですかね、全然思わない。こんなにでかいシャフト、すぐ出荷したいです。
内田
「匠」の本当に、心意気ですね。
根本
一つのことをやり続ける潔さ、でもその先に開くものがある。私はロボットを開発して販売をしていく中で、基礎技術は全て汎用の旋盤から始まり、いまだ挑戦し続けているという、これをできれば若い人に知っていただきたいなと、この思いはあります。生涯、業種は一個でいいんじゃないかという。
内田
それをずっと追求し続ける人生は楽しいと。
根本
その方が僕は崇高というかシンプルで楽だと思います。迷いが無く突き進む五年、十年というのは、後で大きな結果を人生にも残してくれるという、自信に繋がりですね。
内田
しかも、お客さんからは、「ありがとう、よくやってくれた」と言われる。
根本
たまらないですね。
内田
「良い仕事」と。
根本
そういうことがあります。「すごいね」という以上に「神業だね」と言われた瞬間に鳥肌が立ちますね。「誰が?」って思うのですけど、「あ、うちの会社か」と。やはりうれしいですね。
内田
「工業の宮大工チームは、やっぱり神業だね」という、そういうような人たちが集まっていると。
根本
言われ続けたいですね。集まりたいです。集まっているというと語弊がありますので。
内田
そういうレベルをしっかりキープしていくということになりますね?
根本
そこを目指し続ける、目指し続けたいというのが。
内田
今後のことですけれども、どんな仕事を請けていきたいかという、夢と言いますか、「やってやるぜ」というのを、それぞれうかがいたいのですけども。
根本
私は特にインフラをやっていますので、今は機械加工、ワイヤーカットを含めて部品の方が多いのですけども、もっと大型の機械に入っていった時に、大型部品というのは、多分大手さんのコントロールの中でやると3ヶ月とか、1ヶ月でできないものが多い。でも、緊急性のあるもの、国に関わるもの、有事のときであったり、災害のときであったり、異業種だからこそ提供できるもの、パッパッパと、宮大工に頼めば知恵とモノが一緒に納まってくる。こんなことができる宮大工になれたら素敵だなと思います。
内田
とにかく困って、本当に緊急事態のときに、「宮大工に頼めばいい」と言って、それがもう短期間でできあがってくる。
根本
これがまた異業種から来れば、例えば建築業界、土木業界、そんなところからも宮大工に頼めば金属でバッと形にしてくれるというような、こんなことができれば素敵だと思いますね。
内田
髙津さんはどうですか?
髙津
これだけ今、世の中に情報が出ていますから、例えばパソコンを見れば何でも知れる時代ですから、今更もう隠すものなんて無いというような、見られるものは何の問題もないですし、多分その仲間が今集まっているのですね。見せても見られても困らないという。それを知っていますから、「何が出来る、どんなものづくりが出来る」というのを、お互いが知っている。それをわかっておけば、言い方は悪いのかもしれないですけども、「来るもの拒まず、去るものは追わず」という精神でモノづくりが出来ると思っています。異業種であろうと何であろうと、その輪ができていけば本当に面白い仕事がしていけるんじゃないかという風に思っています。
内田
ある意味「何でも来い」という風に聞こえたのですが。
髙津
そういう心構えでいます。もう「何でも来い」っていう風に、そういう気構えで。宮大工はそういう連中が集まっていると思っていますので。
内田
土居さんいかがですか?
土居
一つの品物を作るときに、各機械を寄せ集めて、やっと一つの品物が出来るという、宮大工の仲間が作り上げて一つの製品を作る、これが一番の楽しみですね。そうすれば信頼できる仲間の間違いない仕事が自分のところにきて、最後に一つ出来上がる。これが一番の楽しみじゃないかなと思いますね。
内田
ものすごく精度の高いものが出来上がるという「ワクワク感」?
土居
そうですね。高くなくても、皆で作ったというのがいいですね。
内田
皆で作る。
土居
3社、4社、5社の機械が必要で一つの形になった。何かやっていて、仲間としての連絡をとり合って品物が出来上がる。これが一番楽しいことだと思います。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
セキュリティ対策で活躍する特殊ネジ「TRF」
サイマコーポレーション(藤沢市)
ゲスト
大協技研工業株式会社 代表取締役 大山康夫さん
【プロフィール】
1948年 熊本県熊本市出身
1971年 中央大学理工学部卒業 住友スリーエム入社
1986年 大協技研工業設立 代表取締役社長就任
「虫との戦いを支える粘着製品」を特集。「ヒアリ」をはじめとした外来生物や農作物・工場での有害生物の駆除や忌避でその存在に向き合い、安全・安心を求めてきた相模原市の大協技研工業。今新たな役割が期待されているのが「粘着製品」。大山康夫社長に加工技術や研究開発、今後の可能性を伺います。
大協技研工業が開発した「キヒ巻くん」。壁の隙間を完全に覆うことで、侵入経路を遮断しながら、徐々に薬剤が染み出す独自の技術で、有害動物を「忌避」するという製品です。粘着テープの手軽さとその効果で、アリやクモなどの害虫の侵入を防ぎます。
内田
この「キヒ巻くん」、今話題のヒアリも寄せ付けないという商品ですけども、特徴を教えていただけますか?
大山
今、「忌避」というのがすごくブームになっておりまして、窓にぶら下げるものとかございますね。私どもの「キヒ巻くん」というのは、その忌避剤がフィルムの中に練りこまれているのです。普通、窓にぶら下げるものというのは、そこからベーパーで出ていくわけですから、風があればどこか行ってしまう。うちの製品というのは練り込まれていますから、当然そこからジワジワ出て行き、非常に長持ちするということが特徴になります。
内田
ジワジワ出ていくというところが技術。それはそんなに簡単にはできないことなのですか?
大山
そうですね。それとあと一つは、我々は「粘着」を扱っている会社ですから、それを粘着で貼れるようにしたというのがひとつのアイディアですね。これは、技術じゃなくてアイディアになります。
内田
殺虫剤と忌避剤っていうのは、ちょっと違うものなのですね?
大山
違いますね。殺虫剤は完全に殺すために噴霧させるということ。忌避の場合には「寄せ付けない」ということですから、殺すまではいかないのです。要するに来させない。
内田
嫌がるものを出すということですね。今、その忌避剤というものが注目されている背景というのはどういうところにあるのですか?
大山
日本の女性は特にくっつけるのが好きじゃないんです。虫を見ますから。だから見えない状態にしたいと。
内田
虫がいっぱい付いちゃうのは見たくない。
大山
もう「どっか行っちゃえ」ということですよね。だから忌避っていうのが今ひとつのブームというのはそこだと思うのです。要するに来させないという考え方です。最初は農業などで「くっつける方」をやったのですけど、やはり来させないというのも、ひとつのブームというか、皆さん好まれる材料だということですね。
内田
今、ヒアリという、そもそも日本にいるはずのない虫がいるということで、それが来ないようにしようということは、簡単に、今まであった商品をパッと応用できるものなのですか?
大山
たまたま今ヒアリが非常に話題になったので、この「キヒ巻くん」とヒアリというのが注目されたのですけども、そもそも「キヒ巻くん」はそうではなくて、私どものクリーン製品という中に位置づけられたのです。私どものクリーン製品の中で、エアシャワーという、クリーンルームに入るときに、そこでゴミを取ってしまおうという、「アイビーキャッチャー」というのがあるのですけど、それをお客様に提供した時に、お客様の方から「ゴミと、もう一つ困っていることがある」と。「それは何ですか?」と言ったら「虫だ」と。例えばクモが来てしまうとか、タカラダニという赤い、潰すと血のように真っ赤になるダニが来てしまうとか。それを何とかしたいということで、じゃあ来ないようにしようというのが「キヒ巻くん」だったのです。その中に当然アリもあったんですね。
内田
はい。
大山
そうしたら、そのアリがよくわからなかったのです。赤いアリ、黒いアリぐらいしかわからなかったのですけども、フィリピンでテストを行った時に、現地の人間が「ファイアアント、ファイアアント」と言っていた。「何だ、それは?」と。ファイアアント、そのまま言えばヒアリ。そうしたら日本で「ヒアリ、ヒアリ」と騒ぎ出した。本来クリーンからスタートしたものが、ちょっと別の、ヒアリの忌避というところに今は流れが変わって来ているということなんです。ですから、そこにまた何かビジネスチャンスが多分出てくるだろうと。まだはっきり言ってよく考えていません。でもビジネスチャンスは当然ありますね。
内田
この、突然現れたヒアリの需要というのが、これからどういう風に発展していくのでしょう?
大山
今、日本に入れないようにしていますよね。ですから、入って来なければ、これは多分それで終わってしまうと思うのですけど、ただ、例えば幼稚園のお子様たちが、万が一、刺されたら危ない。そこに対して何かしら我々できないだろうか、というようなことは考えていけると思うのです。今度は「安全・安心」ですね。そこの部分の商品化というのを考えたいという風には思っています。
現在、農業の分野では作物にも影響する害虫をいかに駆除、忌避するかが重要な課題になっています。大協技研工業では「虫バンバン」を開発。殺虫薬品などを含まず、黄色いシートの「色」で害虫を引き寄せ、粘着部分でキャッチして農作物の被害から守るという製品です。トマトやナスをはじめとしたビニールハウス栽培などの現場で活躍しています。
内田
「虫との戦い」と言うと、やはり農業に携わっている方が一番苦労されていると思います。そこでも商品が使われているということですけども、どういう用途で使われていますか?
大山
基本的に虫をやっつけるというのには、三つ方法がある。「IBM」と言われているのですけど、一つは農薬。もう一つは黄色の粘着板、もう一つはダニ。ダニがその害虫の卵を食べるというのがある。その中で私どもは、この真ん中の黄色粘着をやろうと。これは何故かと言いますと、有機農法とかが今出ていますよね。それともう一つ、農薬に対して生き残った害虫は耐性ができますから、効かなくなってくるのです。
内田
どんどん強くなっていくのですね。農薬を撒けば撒くほど、耐性を持った害虫がどんどんパワーアップしていく。怖いですね。
大山
現実に、例えばアザミウマとかコナジラミとかいるのですけど、これは西の方ではもう農薬は効かないと言われている。ではどうするのだと言うと、その二番目の、非常に原始的ですけど、黄色粘着で虫を取ってしまおうということになるわけです。要するに、食の安全ということですね。ただこの黄色も、ただ黄色ならいいかと言うと、そうではなくて、黄色の波長によって虫が好む波長があるんです。
内田
同じ黄色でも?
大山
同じ黄色でも。ただの黄色だからいいのではないのです。私ども、これをずいぶん研究しまして、どの波長で虫が来るのかと。それで、ある波長が一番来るということで、その波長の黄色を塗って、それでベタベタするノリを塗って、それで売っている。紙でできていますから、ゴミに捨てられる。これが2~3年前です。7年間はいろいろな試行錯誤をして、でこぼこやったり、蛍光をやったり。
内田
いろいろな黄色をやって。
大山
やっとこの2~3年で、「これはいける」というところに行き着いたというところですね。
内田
研究開発された方は、じっと虫が来るか来ないか見て?
大山
もう大体、顔が虫になっていますよ。だんだん似てきますから、仕事やっていると。はい。
内田
楽しそうですね。職場が。
大山
非常に楽しいです、いろんな顔が居ますから。
内田
今、この商品の需要というか、伸びは?
大山
これ自体は、有機農法がどんどん発達していけば、まだまだいけると思います。
内田
いかにそれを売り込んでいくか、ですね?
大山
そうですね。これが海外にもいずれ使われていくだろうと。今、タイとフィリピンとインドネシアに出しているのですけど、タイでも、やはりお金持ちが買う有機農法の野菜がある。そうするとこの黄色粘着が使われる。
内田
コスト的には、まだかかるのですか?それともかなり投入しやすいようなところまで?
大山
大分安くさせられました。ですからもうコスト的にも十分使えるコストになってきています。
座間市にある生産工場。「かながわ中小企業モデル工場」にも認定されたこの工場では海外人材も活躍しています。日常のあらゆるところに利用される「粘着製品」。大協技研工業の強みと今後の可能性とは。
内田
大山社長はそもそも何故この「粘着テープ」というものをビジネスにしようと思ったのですか?
大山
大学を出た後に、スリーエムという会社に入りまして。当時48,000種類ぐらいの商品を扱っていたのですが、その工業用テープの部署に配属されたのです。そのテープを売っていたときに、「ああこれは面白い商材だな」と。要するにテープというのは、その製品に対するライフサイクルではなくて、そのアプリケーションに対するライフサイクルなのです。
内田
はい。
大山
当時、そのスリーエムの社員としてやっていたのは、「用途を探せ」「アプリケーションを探してこい」と。そうすると、古いテープでも、その市場に対しては新製品という形で販売できる。これが非常に面白いということでテープに嵌っていったのですね。
内田
なるほど
大山
それで16年間スリーエムにいたのですけども、その後に加工をやろうと。それは何故かというと、お客さんに一番近いのです。よりお客さんが使いやすい形で提供しようということで。加工というのは当時テープメーカーがやっていませんでしたから。これちょっとやりたいなと。だから「テープ大好き人間」だったんですよ。
内田
なかなか聞きませんね。「テープ大好き人間」と。
大山
それで加工に入って、独立して脱サラしたということなんですね、はい。
内田
すごく面白いと思うのが、そのテープという商品を売るのではなく、そのアプリケーション、用途を探す仕事なんだと。
大山
はい。
内田
それは現場に入って、どこにテープが必要になるかということを、じっと見て発見するという仕事ですよね。
大山
そうですね。ですから、昔も今も我々の仕事というのは、お客様の製造工程を全部理解しないと駄目なんです。一例を挙げると、プリント基板というのがありますけど、プリント基板ができるまでの工程を全部知らないといけないのです。その中での問題点を探していくわけで、例えば「このラインでこういう問題がありませんか」と。それで「この問題を解決するのにはこの形です」、更に我々加工屋としては、「今度はこれをやればもっと作業性が良くなりますよ」、というアプローチですね。
内田
例えばその生産ラインがありますよね。モノがどんどん動いていく、それで何か動いてしまって、それが生産性を落としている。でも「ここにテープを使うとスムーズに流れますよ」というのは、やっている人たちは気が付かないわけですよね。
大山
そうですね、だから我々が現場の人とどれだけ会話するか、それが必要なんですね。
内田
まず現場に入ってみると。
大山
普通、モノを売るには購買とか資財じゃないですか。私どもとしては、基本的には資財とか購買はあまり行かないで、技術とか現場の方とか、生産ラインとか、そこに行きなさいと。
内田
まさにリアルなニーズですよね。
大山
そうです。やはり問題点は現場にありますから。
内田
ある意味、生産現場のプロフェッショナルですね。いろいろな生産現場があって、営業の方たちが「こういうものは、こういうラインだ」ということも頭に入っていらっしゃるわけですよね
大山
うちの営業マンは入っています。それを知らないと売れませんから。
内田
粘着テープの販売をしている会社さんが「生産現場のプロフェッショナル」というのは意外というか、面白いというか。
大山
そうですね、そうしないとやはり問題点わかりませんから。問題点を解決するところには我々の商品があるんだ、ということですよね。
内田
ものすごい創造力、クリエイティビティが必要ですよね。
大山
それがないとやっぱりテープは売れないんじゃないでしょうか。だからテープの営業って本当に難しいと思いますよ。
内田
御社の営業の方たちは相当、頭をフル回転させて。
大山
社長が駄目だと社員は立派になりますので。
内田
いや、でもやはりそれは社長の呼びかけというか。
大山
はい、考え方ですね。
内田
考え方をしっかりと伝えているからこそだと思うのですけども。そういう現場に入って、自分たちの商品を使うものを発見するわけですよね。お客様が考えもしないような形で、それを提供する、こういう人材を育てるにはどうすればいいのですか?
大山
やはり現場にどれだけ行かせて、お客様から学ばせるか、ということですね。それから「◯◯委員会」というのがいっぱいあるんです。「ものづくりコンテスト」の委員会であるとか、親睦委員会というのがいっぱいありまして。その中にいろいろな部署の人間が集まってくると、何かのテーマに対してディスカッションをしますよね。するといろいろな考え方をそこで勉強するわけです。それも一つの教育の場になっていると思います。
内田
「ものづくりコンテスト委員会」というのはどういうものなのですか?
面白そうですね。
大山
投票箱に、ある期間を決めて、何でもいいから「これがあったら便利だよな」というのを入れるんです。それを締切日に全部開けまして、今度はコンテストと委員会があって、委員会でふるいにかけるわけです。あまりにもくだらな過ぎるよねとか、いろいろなものがありますから。そこでいくつか残ったものを「商品化してみようか」というので商品になるわけです。だから皆からすれば、自分のものが商品化できますから、非常に興味あるという形になるわけです。
内田
投票箱の中に、かなりそういうアイディアは入りますか?
大山
結構入りますよ。皆考えるのが好きなんです。こんなのがあったら便利でいいよと。大体、9割は駄目ですけどね。
内田
皆が参加するというのが素晴らしい。停滞する会社というのは皆、思考停止になる。新しいことを考えさせない、前例を踏襲する、黙ってやっていればいいんだという。こういう文化になってしまうわけです。
大山
結局「失敗を恐れない企業文化」というのがないと。「これ言ったら何か言われちゃうな」と。それは駄目なんですね。だからもう「自由にやれ」と。それから迷っているなら、やらせてあげる。
内田
「やってみろ」と。
大山
「やってみろ」と言う。私がよく言うのは「やるかやらないか、迷っているのだったらやってごらん。もし失敗したら失敗という大きな成長があるよ」と。「成功するよりも失敗の方が成長するよ」と。ただ「会社の屋台骨揺らぐような失敗はするなよ」と。これは当然言いますけど、でもうちは何しろやってごらんということをどんどん言います。
内田
失敗もいい、失敗こそ価値なんだと。そこにものすごく説得力があるというか、力が入ってらっしゃるのは?
大山
要するに活性化してあげないと。やはり夢を与えてあげないと。社長の仕事というのは、いかに社員のモチベーションを上げるか、と思っているのです。社長は、基本的には決定はしますけど、実務的なことはわからないし、何もできない。では何をやるかといったら、皆のモチベーションをどれだけ上げるんだと。だから私も会社で明るく振舞って、社長に話ができるような雰囲気を作らないと何にも良い事がないですよね。
内田
今後の粘着製品の可能性というのは?
大山
これは私どもがどれだけ用途を開拓するか。「見つける」のではなくて、「開拓」していくかということだと思います。ですからそれはある意味、無限かもしれませんね。どこまで行くかわからない。目をいろんなところに、耳も、いろんな情報を掴んで、そこにビジネスチャンスを見つけて我々としてのアイディアを送り込んでいくということじゃないかと思います。
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吸着でがっちり「吸着パワーハンド」
小川優機製作所(横浜市)
「さがみロボット産業特区の今」を特集。特区の存在意義が議論される中、神奈川にある特区の現状を探ります。生活支援ロボットの研究開発が進められる県央エリアでリハビリテーションを支える製品・ソフトを開発する企業のトップお二人に、特区が持つポテンシャルと課題について伺います。
ゲスト(左)
株式会社エルエーピー(厚木市)
代表取締役社長 北村正敏さん
「パワーアシストハンド」「パワーアシストハンドレッグ」を開発。脳梗塞などで機能が低下した手や足のリハビリテーションを支える。
ゲスト(右)
株式会社ラッキーソフト(平塚市)
代表取締役 三田村 勉さん
モーションセンサーを使い、ゲーム感覚で楽しみながらリハビリ・レクリリエーションができる「NATO」を開発。
内田
お二方は「さがみロボット産業特区」で事業をされている。「特区」と言うと、いろいろな意味で話題になっていまして、「特区なんかいらないんじゃないか」というような極端な論調まで出てきている。実際に特区の中で事業をされていて、メリットを感じていらっしゃるところをお伺いしていきたいのですけれども、まず三田村さんから。
三田村
まず、神奈川県とやりとりができるというのはすごく魅力的ですね。普通に起業したばかりで神奈川県の県庁の門叩くというのは、「何のために行くのか?」ということになるのですけども、こういう取り組みをすることで、相手から電話がかかってきますし、行くことができます。さらに大学とも連携ができますので、そういう連携をするためのひとつのワードというところでは非常に助かっています。
内田
北村さんはどうですか?
北村
私どもは、そもそもロボットのロの字も知らないメンバーで、おじさん軍団が生意気にも「ロボットをテーマにした町づくり」みたいなものを目指して動き出したのですけども、素人でどうしていいかもわからないけど、大きなチャンスとして与えられました。現実に商品化されたロボットを販売したり、海外からも問い合わせがあったり、全てのきっかけ、会社ができたきっかけも、この特区になった。ビジネス面というか、お金の面、補助金を国の方からいただくようなアドバイスからサポートまで、徹底的にやっていただけました。特区の中でもロボット企業という信用というのがやはり大きかったと思いますね
内田
特区の特徴である「補助金」という部分、三田村さんはどうですか?
三田村
最初に公募の手を挙げて採択されたのですけども、実際それほど大きなお金をいただくことはないです。ただ、そういった「きっかけ」というのはすごくありがたくて。この特区で出てから関西の方からもお声がかかっておりまして、そこでは大学病院さんと一緒に心拍を取ったりとか、遊びながらどういう効果があるのかとか、ビッグデータとか、そういった話にも広がっています。
高齢化が進む神奈川県。「未病」への取り組みとともに、一度病気になった後や、身体機能低下の予防につながるという「リハビリテーション」が注目されています。現在、介護サービスとしてリハビリを利用している人数は全国でおよそ95万人。また、脳卒中などの総患者数は117万人いるとされ、機能回復や、高齢者の認知症予防、事故被害者など、様々な形での筋力・脳機能リハビリが求められています。
内田
「リハビリ」ですけども、それぞれどういう方のリハビリをターゲットにされているのかということをお伺いしたいのですけども。
北村
私どもの取り扱っている製品は脳卒中をテーマにしたリハビリの器具です。脳卒中になると片麻痺になってしまって、放っておくとどんどん手から足から拘縮していってしまう。それを防ぐためには、やはりリハビリが必要なのですけども、今、病院などではある程度リハビリの時間が制限されていたり、療法士の先生も人数が制限されていたり、あるいは病院を退院する時期も3ヶ月から6ヶ月とかで区切られていて、思った以上のリハビリができていないというようなことが言われています。現実に療法士の先生も、ちゃんと療法できる時間が欲しいし、退院されても面倒みていけるような時間も欲しい、ということはお聞きする。そういったところで、うちの機械はロボットという枠の中で、自分たちで、家庭でもできる、自分ひとりでもできる手のリハビリ、足のリハビリのロボットを開発して、やりがいと熱い思いを持って取り組んでいます。
内田
三田村さんはどうですか?
三田村
最初はリハビリのシステムとして出したのですけれども、高齢者だけではなくて、いろいろな障害を持った方だとか、そういった子どもたちに笑顔を作ってあげようというような取り組みで。笑顔のなくなったような所に「笑顔のリハビリ」ということで、ずっと続けていったのです。一つの事例なのですけども、18歳の片手しか動かない子が、普段3分間しか動かないのに、うちのシステムで10分間動かした。「やれ」と言われたわけではなくて、自分の中で一生懸命、片手を動かしてシステムを進めていった。また、うちのシステムがきっかけで、子どもたちがおじいちゃんとかおばあちゃんに「一緒に遊ぼう」と語りかけるようになったとか、施設で塗り絵ばっかりしていたおじいちゃんが「こういうのがやりたかったんだよ」と涙ながらに教えてくれたこと、そういったところで気付きは多いですね。
内田
リハビリ市場をビジネスチャンスと捉えたときに、リハビリが必要とされるとニーズをどのようにイメージされていますか?
三田村
すごく市場は広がると思います。高齢化社会もそうですけど、医療費とか介護保険料の高騰だとか、今、明らかに赤字であるわけで、それを我々はいかに抑えていくかという努力をしなければならない。ただその場でテレビを見させるだけではなくて、リハビリテーション、運動をして、健康になって、医療費を削減していこう、というような取り組みに、これからお金は使われていくのだと思います。
内田
北村さん、ビジネスチャンスはどうですか?
北村
実際に私どもは海外からの問い合わせが増えていまして、特に中国などが多いのですけども、独占してやりたいという問い合わせがある。そのくらい高齢化というのは大きな問題になっているということをヒシヒシと感じますので、成長していくと思っていますし、そういう時代がもうすぐそこに来ていると思います。
内田
「今後、特区制度を続けていく」と、黒岩祐治神奈川県知事も2018年からさらに延長していこうという話もある。この特区という制度をさらに維持し、意義あるものとして有効に活用されるためには何が必要だと感じますか?
北村
やはり県の特区ということ、もっといろんな企業が活用できることや、県の応援とか大学のバックアップだとか、いろいろなことがある。是非いろいろな会社に取り組んでもらうと、日本の中のロボットに関しては中心地になると思いますし、世界に向けての発信なんていうのは起きうること。もうちょっと頑張って、ロボット特区があるということをいろいろな企業の方が知って、携わっていただくと、すごく大きなメリットがいっぱいあるのに、もったいないと思います。
内田
三田村さんはどうですか?もう少しこういうところにバックアップが付くとうれしいと。
三田村
厚木市さんとか大和市さんというのは、展示会で補助をしていただいたりして、すごくありがたいです、藤沢市さんにも呼んでいただいたりして。県ももちろんですけれども、そういう支援があって、そういうところをもっと広げていくと、我々も企業なので、やはりタダでというのではなく、展示するときの補助といったところは協力していただいて、広げていければすごく良いと思います。
内田
実際に使ってみて、本当に必要とされている動きを提供するということが伝わってきたのですけれども、製品の完成度といいますか、ご自身たちの中での満足度といいますか、大体何点ぐらいですか?
三田村
常に成長していますから30%くらいじゃないかと思ってしまうのですけれども。新しい現場に行けば行くほど、新しいことが見えてきて、そこに取り掛からなければならないというのがあるのです。例えば台湾とかシンガポール、マレーシアで「欲しい」という声がある。ただ、これは日本語にしかまだ対応していません。地元の高校・大学と連携して、例えば吹奏楽部に曲を提供してもらうとか、コンテンツで提供してもらうという取り組みを、今まさにしておりまして、なにかしらそういった学生のパワーというところを入れていきたいとは思っています。
内田
ソフトがどんどんリニューアルされていくような仕組みを作っていくということ?
三田村
はい。
内田
北村さんはどうですか?
北村
うちの製品の完成度と言えば、70~80%は行っていると思います。ただ、課題として、私どもの製品は基本的に個人宅、在宅の方の利用者が多いので、いかに在宅へのロボットの普及を進めていくかということ、そういう仕組みづくりがすごく大事だと思っています。三田村社長のロボットもそうですけども、ものすごく良いロボットがいっぱいあるのですよ。特区の中で50種類も60種類も素晴らしいロボットがあるのに、実際に在宅の高齢者で困っている方はそれを知らない。何とか知っていただくような仕組み、あるいはモニタリングするとかですね。
内田
はい。
北村
高齢化が進んでいくと不安になる。「自分たちも歳をとったらどうなるのだろう」「子どもや孫にも迷惑かけたくない」「できたら家の中で最期まで暮らせたら良いな」というようなことを、安心度というか、高齢化社会が怖くないという安心度を高めるためにも、こんなロボットがある、こんな未来があるということを、このさがみロボット産業特区から発信して、高齢化社会を怖がる時代じゃなくなるという、そんなことを作っていくと、ビジネスにも繋がるロボットの普及に繋がっていくと思っています。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
物流屋さんの販促支援サービス「販促便」
タムラコーポレーション(川崎市)
ゲスト
株式会社パスポート
代表取締役社長 濵田総一郎さん
【プロフィール】
1955年 鹿児島県いちき串木野市出身
1977年 武蔵大学卒業 東武鉄道株式会社入社
1980年 濵田酒造入社 常務取締役営業本部長・東京支店長
1989年 ワールドリカーズ株式会社設立 代表取締役社長就任
1993年 パスポート株式会社設立 代表取締役社長就任
2017年 一般社団法人神奈川ニュービジネス協議会 副会長就任
値上げに揺れる「酒」業界を特集。酒税法の改正で安売りが規制される中、値上げか据え置きかで未だ判断が分かれている。大手小売やディスカウント店はどう対応しているのか。また法改正の意義はどこにあるのか。川崎市で酒専門店や業務スーパーなどを展開するパスポートの濵田総一郎社長に、リアルな現状を伺います。
内田
酒税法改正ということで6月からお酒の価格が変わっているはずですけども、現状はどうですか?
濵田
そうですね、現場が本当に混乱しているという状況です。我々も近隣の店舗の調査をしたのですけれども、大体6%から12%ぐらいの値上げを6月に入ってされていて、中には据え置いておられるところもあるというところで、我々も、日々、周りを見て価格をどうしようかというところで協議しているところです。
内田
足並みがそろわない、みんなが混乱している理由というのはなんですか?
濵田
今回は総販売原価を割らない価格ということになっているわけです。ところがその総販売原価の算出根拠が示されていないものですから、各店舗、各業者にそれを委ねると、どこからが総販売原価を割る、どこからが違法なのか、それがわからない。それで周りの状況を見ながら、「あそこの価格がどうか、こっちの競合店はどうか」と、周りの店を見ながら自分たちの最終的な価格を決めようということで、いったん決めてもまた、毎日、毎週変動している。そういうのが、今の現場の状況ですね。
内田
「一律何%値上げせよ」、ということではなく、そういう意味では、大手流通もパッと値上げをするという行動は取っていない?
濵田
年が明けて1月2月、3月ぐらいまでは「今回は値上げをせざるを得ない」ということを、大手流通さんのコメントとしても言っておられたのですけれども、6月1日が近付くに連れて、総販売原価の理論武装を段々されて、一部はその理論武装ができたので、従来の価格を据え置いても違法にはならないということで、一部のところは据え置くところも出てきているということなんですね。
内田
消費者の立場からすると、「一体値上げをするのか、しないのか」という意味では、お客さんも混乱するところですよね?そういう中で、何故今、酒税法改正ということになったのですか?
濵田
これは「町の酒屋さんを守る」という、議員立法で成立した改正法案ですけれども、一部の特定の業者さんだけを守ろうという改正法のようにしか見えないと、我々から見るとそう思いますね。一番大事な消費者、生活者、ここに対する配慮が全くなされていないのではないかと。
内田
「町の酒屋さんを守る」ということですけれども、町の酒屋さんは本当に今守らなければいけない状態にあるのか。例えば商店街にある酒屋さんというのは、もうとっくに淘汰をされる、もしくはコンビニエンスストアになる、というような変化を遂げていて、守るべき町の酒屋さんというのは一体どういうものなのだろうという、ありそうでないようなものを言われているような気がするのですが。どうなのでしょう?
濵田
おっしゃる通りですね、歴史を遡りますと、1993年9月に酒類販売免許の緩和通達が出た。「お酒の免許が確実に緩和されていきますよ」と。現にスーパーマーケットさんだけでなく、コンビニエンスストアさん、ドラッグストアさんがどんどんお酒の免許を取りだして、お酒の売り場が一気に全国で広がっていったわけです。その最中に、町の酒屋さんというのが、今まで活躍されておられたところが、どんどん淘汰されていったわけですね。その中で町の酒屋さんも今残っているところは、その住み分けのために清酒の品揃えを豊富にしたり、ワインの品揃えを豊富にしたり、自分でお酒の知識を身につけて専門店としての顧客対応をすることによって今生き延びている。そういう意味では今残っておられる町の酒屋さんの大半というのは、もう住み分けができつつあるお店ですよね。ですから今回、あえてそういう特定の町の酒屋さんだけに焦点を絞った法改正が如何なものか、というのが一つあります。それと、その趣旨はそうであっても、実際には売る方と買う方がいて、大手の量販、小売チェーンというのが売り上げも非常に大きくなっていますし、そのバイイングパワーが増してきている。しかも今は供給過剰の方で、買い手の方が強いわけです。そして一方の、そういうバイイングパワーのない、町の酒屋さんたちは、値上げをすでに受け入れて、受け入れざるを得なくて、値上げをされているわけです。本当はその力の弱い町の酒屋さんを守ろうという趣旨でスタートしたのが、現実的には、その力の強いものと弱いものとの格差がさらに広がるのではないかなと思って懸念しているのですけどね。
酒税法改正による値上げ。その理由は、「リベート」の規制強化です。これまで業界では、商品を多く販売した小売店にメーカー・卸業者が「リベート」と呼ばれる「販売奨励金」を支給。店舗での値下げを可能にする一方で、メーカーの疲弊にもつながっていました。今回、販売力のある大手小売と、町の酒屋さんの販売価格にこの「リベート」が強く影響しているとして、国税庁が公正な取引のために基準を設け、裁量的なリベートなどを規制しています。
内田
リベート、販売奨励金というものをメーカーが、「自分たちの商品を是非とも置いてほしい、売ってほしい」ということで、ずっと払い続けてきているという商習慣、これがかなり負担になってきているのではないか。そういったお酒メーカーの業績も、必ずしも好調とは言えない。酒離れということもある。そういうものに対して、こういう法改正という部分が働いているのかなと思うのですけど、このあたりはいかがですか?
濵田
メーカーにとってはこの、いわば官製値上げというのは、大義名分のある値上げとして大歓迎だと思うんですよ。ただ短期的に見ると、リベートが無くなって、その分、利益が出るわけですけれども、これを中長期的に見ると、やはり一番の不利益を被るのは、その値上げによって、低所得層の、経済的弱者の立場にある生活者、消費者の方々ですよね。そういう人たちが、ここで酒離れ、あるいはビール離れがくる、マーケットそのものが縮小すると、これはもう、メーカーにとっては経営の致命傷になっていくわけです。また、国にとっても、税収が減ってくるわけで、長期的に見たときに、誰が得をするのかなと。そういう思いはあります。
内田
大手であればあるほど、バイイングパワーがあるから販売奨励金も貰えて、それで値段も安くできる、と考えると、大手流通が今まで得をしていたというか、利するところにあった。それを是正しようと考えると、正しく平等に、お酒が販売されるのではないかと思うのですけども、ここはどうでしょう?
濵田
そうですね、不透明なリベートというのは、これから無くなってくると思うのですけど、合理的な、機能を評価してのリベートというのは無くならないと思うのです。元々小売りの価格というのは、企業が意思決定をする、企業の努力によって、そのコストを決定するのが、本来の在り方だと思うのですけれども、ここへ行政が入ってきて、価格のコントロールをするということ、そのものがちょっと無理があるような気がしますね。
内田
そもそも、もう自由競争なのだと。そういうものに介入してはいけないのではないか、という思いもあると?
濵田
やはり「適者生存」なんですよね。そして「天は自ら助くるものを助く」で、大手と同じような競争をしようとすると、町の酒屋さんは勝てないわけで、先ほど言ったように、自分たちの得意な土俵を作って、自分たちの得意な土俵で勝負をすべきであって、それはやはり専門性とか自分の特徴を活かした、そういう戦い方で社会的に存在価値の高い店づくり、売り場づくりをしていくしかないと思うんですよね。
市場に大きな変化をもたらす酒税改革。その中で、「ビール系飲料」と呼ばれるビール・発泡酒・第3のビールは、今後10年で税率が統一されることが決定しています。国内メーカーもさらなる商品開発を進める一方、パスポートでは海外メーカーと組んでプライベートブランドを充実させ、低価格の商品を提供できるよう注力しています。
内田
2026年までに、ビール・発泡酒・第3のビールの酒税が統一される。今まではもう「とにかく安いビールを売ろう」というので、いかに税金を安くするかという戦いだったと思うのですけれど、ここでこの戦いは終止符が打たれるということなのですか?
濵田
この酒税改正とメーカーさんは、いつもイタチごっこみたいなもので、酒税改正をどういう風に新しい商品で埋めていこうか、ということをずっと繰り返してきたわけです。
内田
すごい知恵比べ。
濵田
今回はビール・発泡酒・第3のビールの酒税が一本化されるということですが、ビールは下がるわけですよね。発泡酒と第3ビールは逆に上がる。そうするとどういうことが起こるかというと、一番有利なのはビール。そして、ビールの中でも、ブランド力の高いビール。ここは一番有利になってくると思います。今、各メーカーさんが考えておられるのは、いかに新しい価値のある新商品を作りだすか、そこの戦いになってくると思います。酒税が一本化されても、そこでやはり松・竹・梅、価値訴求型の商品、そして価格訴求型の商品、そういうバラエティに富んだ商品を出すことによって、ビール業界がまた活性化する。その流れに持っていかざるを得ないだろうと。一方では海外から持ってくる、海外で作って日本人の好みに合うビール、こういう開発も一方では、更に盛んになってくるだろうと思います。
内田
「安いビールを売りたい」という側の競争は終わらないと?
濵田
終わらないですね。これはニーズがある限り、お客様の欲求がある限り、そこはもう作り手も、我々小売りで提供する側も、常にそこを満たすことによって我々の存在価値が出てくるわけですから。
内田
そういう意味ではパスポート、濵田社長の会社というのは、どういう戦い方を?
濵田
私のところは、お酒というものを単独で見ていない。食品売り場の一角に入った食品と同じ視点でお酒の商品を見ているようにしているわけです。ただ、お酒のこういう流れになってくると、我々が今、展開しているのはお酒のプライベート商品を強化していこうということなんですね。従来、我々もビールのプライベート商品をアメリカで作ったり、ヨーロッパで作ったり、近年になってからは、韓国、中国、それから、ベトナムで作っていますけども、競争力を高めるためには、あるいは自分たちの土俵を作るためには、もう国内のメーカーさんで応じてもらえないのであれば、海外のメーカーと手を組んで日本と同じような製法のビール、そして原材料についても、同じような原材料を使いながら、品質的にはもう遜色のないものを、独自の商流、流通を作りながらお客様に提供する。今そういう動きをしているところですね。
内田
パスポートのこれから、ですけども、濵田社長はこの会社をどのようにしていきたいですか?
濵田
3本の柱がありまして。一つは、既存のスーパーマーケットさんと住み分けをするために、生鮮&酒&業務スーパーというビジネスモデルを作っています。これをどんどん大きくするということ。それと今後将来、次の食の柱を作ろうと思っているわけですが、これは精肉を中心とした事業ですね。そのメーカー機能、加工機能を持ちながらそういう物販の小売り事業もやる。ネット販売もやる。そして、肉を中心とした飲食事業もやる。これは高収益、高利益のビジネスモデルができると思っています。そして和牛ブランドを中心にグローバルでも展開できる。そういう発展できるビジネスモデルを、この食肉を中心として、将来を作っていきたい。今はその準備をしているところですけれども。
内田
はい。
濵田
もう一つは、エネルギーの事業ですね。今までは太陽光発電事業が主力だったわけですけれども、今後はバイオマス発電、あるいは地中熱とか温泉熱を使ったバイナリー発電だけでなくて、創エネ・省エネ・蓄エネにIotを組み合わせたスマートグリッド社会へ向け、それを発展させようと。ですから一つが業務スーパー。二つが精肉を中心とした肉事業。そして三つ目がエネルギー事業。この3本柱に集中をして、この10年先を見据えて発展していきたい。そう思っているところです。
tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)
環境に優しい手袋「よみがえり」
ナカノ(横浜市)