惜しかった…という言葉は的確な様で、全てを満たしてくれない。
26対24、わずかに届かず。桐蔭学園が東福岡高校と引き分けて初優勝して以来、花園で8年ぶりに目の当たりにした決勝戦は、単純ではない思いが込み上げました。
98回目を迎えた全国高校ラグビー、今回もMBS毎日放送の全試合インターネット中継スタッフに加えていただき、神奈川代表桐蔭学園の戦いを追ってtvkで放送可能な2回戦大分舞鶴高校、3回戦石見智翠館高校、準々決勝天理高校との3試合で実況(今回もたくさんの方々に、感謝し切れない程お世話になりました)。加えて決勝進出に伴い、tvkのニュース取材も担当しました。
<準々決勝 天理高校対桐蔭学園 解説の村田亙さんと>
初戦から全国で名をはせる強豪との戦いが続く厳しい組み合わせで、3回戦から準決勝の東福岡戦まではいずれも逆転勝ち。前年(ベスト4)の強力FWの様な、はっきり目に映る看板は持たない桐蔭学園ですが、対応力や修正能力のレベルが高いチームでした。県大会までにめったに経験することがなかったリードされる展開でも落ち着き払い、持ち前の機動力をベースにポジションに拘らず全員一体で攻め続け、正確なキックも決まり、やがて試合を優位に進めていく。小西主将だけでなくメンバー皆が判断力を備えて強敵を追い詰める、実に味わい深いチームです。
だからこそ、1年前の準決勝ロスタイム、逆転勝利へと8分間にわたりFWで攻め続けながら、届かなかった相手大阪桐蔭高校に、今回決勝の舞台で雪辱する可能性を期した一戦でした...
「今までに、なかった圧力」と桐蔭学園の藤原監督が振り返るように、ここまで一度ボールを持てば殆どボールを失う事なく繋いでいた桐蔭学園から、体格で上回る大阪桐蔭高校は幾度となく攻撃の芽を摘み取っていきます。
普段tvkのラグビー中継でも解説でお世話になっている方々にも花園でお会いしましたが「桐蔭学園は決勝までに次々と強豪と戦ったことで、かなり分析されてしまった。密集でのプレッシャー、DFラインのわずかな間隙を突かれている」と感じていました。
それでも、ボールを動かし続け少ないチャンスを高い確率でトライに結びつけた桐蔭学園は終了間際2点差としてから最後の攻撃に転じましたが、大阪桐蔭の勝負をかけたタックルを受けノーサイド。
花園で通算6度目の決勝を戦った桐蔭学園は5度目の準優勝。
悔しさを滲ませながらも淡々と言葉を選んだ藤原監督は「FW戦で優位に立たれてしまった。それでもトライ数はお互い4本ずつ。今までの準優勝とは違う感覚」と振り返りました。
過去2年、準決勝でいずれも大阪代表校に敗れた先輩たちの悔し涙を目の当たりにしてきた小西主将は「勝てた試合。大阪代表校に大阪の地で勝つには、何かがもう一つ足りない。」と唇を噛みしめました。
強敵相手に「よくぞ、あと一歩まで迫った。でも彼らにとって言い表せない位悔しい試合だったはず。」と思いをはせたまま複雑な感情で行った試合後のインタビューでした。
翌日学校に戻った桐蔭学園のメンバーは、準優勝の報告会を行いました。
私が、小西主将に「昨日の試合直後、難しい振り返りのインタビューをして、すみません。」と話しかけると小西主将は「いえ、これから先のラグビー人生でも、またインタビューしてもらえる選手になれる様、頑張ります。」と目を輝かせてくれました。
『ラグビーは少年をいちはやく大人にし、大人にいつまでも少年の心を抱かせる』
多くの方々が引用してきた、元フランス代表主将の言葉が、すっと心を満たしてくれた瞬間でした。